台湾では豆花(トウファ)はスイーツであるだけでなく、文化の縮図と記憶の媒介でもある。この伝統の味は、かつては三輪車の移動屋台から始まったが、今ではファッショナブルな店ができ、国賓をもてなす晩餐会にも出されるようになり、食に対する台湾人の情熱と美意識が現われている。石膏粉やにがりで凝固させた豆花は、柔らかく滑らかで、シロップにピーナッツやレモン、香菜などアイディアに富んだトッピングがあり、台湾の味覚の多様性が見て取れる。
こうした細部へのこだわりと風味を重んじる精神が現われているのは豆花だけではない。同じ大豆である台湾産の枝豆は、早くから海外の市場でも知られている。高雄旗山の枝豆農家は高性能の収穫機と冷凍加工設備により、日本への輸出でトップに立つ。「緑の金」と呼ばれる枝豆は農作物輸出のチャンピオンであり、また台湾のハイテク農業と産業協力の模範でもある。近隣諸国との価格競争の中で、台湾は品種改良と生産管理で品質を安定させ、強さを見せつけている。
同じ大豆食品でもう一つ忘れてはならないのは、特別なにおいで世界に知られる「臭豆腐」だ。その発酵過程は見たくないという人もいるだろうが、「臭さの中に香りを帯びた」独特の風味は一度食べたら忘れられない。これら大豆を原料とした台湾の滋味は、古くもあり、新しくもある。新竹にある「豆之味」は有機大豆と低速粉砕によって食材本来の味を追求している。雲林県の莿桐にある「久代食品」は台湾最大の湯葉生産地を構築し、海外へも輸出している。これら大豆食品は日常のおかずであるだけでなく、ベジタリアンにとっても欠かすことのできない重要な食材である。
台湾はベジタリアン人口の多さで世界のトップに名を連ねているが、菜食の場は寺院から一般の食堂や高級レストランにまで広がり、人々の舌を楽しませている。近年はさらにベジタリアンマーケットや菜食ベーカリーなども増えてきた。宗教上の理由や、健康や環境のためなど、理由はさまざまだが、これらが融合し、日常の飲食が世界的な潮流とつながっている。
台湾のこのような食の多様性と包摂性は、外国人の眼にも魅力的に映る。2023年に着任したフランス在台協会のフランク‧パリ代表は、台湾の民主主義を高く評価するとともに、台湾の豊かな食文化も称えている。この島において、食は食卓の風景であるだけでなく、世界とつながる懸け橋でもある。私たちの食べ物が、世界に台湾の物語を伝えているかも知れのだ。