時代を経てきた庶民の知恵
私たちは工芸センターを後にして、近くにアトリエを設けているアーティスト范承宗を訪ねた。「大多数の人は伝統工芸は『手がかかる』ものだと考えていますが、実際には非常に『聡明』なものなのです」という言葉が印象に残った。
「竹跡+」に展示されている「Flow」は范承宗の作品だ。これはサンラウンジャーで、床と接する部分は三つの軸がある竹のボールでできており、椅子の座面は火であぶって流れるような曲線を出した竹でできている。
工業デザインを専攻した范承宗は工芸品制作で独立し、現在はインスタレーションアートと彫塑をメインに活動している。さまざまな分野で多数の作品を発表している范承宗にとって、竹はその創作キャリアのカギとなった素材だ。
工芸の話になると目を輝かせる范承宗は、工芸というのは一般の人々がイメージするものとは異なると語る。一つひとつの工芸品の製造工程は非常にシンプルで聡明なものなのだという。熟練した職人は、最も少ない道具と最も簡単な材料、最も手間のかからない方法で制作する。「これは職人が徒弟制度を通して代々伝えてきたもので、数百年、数千年をかけて、これ以上改善できないところまで到達した知恵の結晶なのです」
一般の人々は、工芸品の制作には「手がかかる」と考える。「作るのが難しく」「生産量が少ない」ため「価格も高い」のだと思われいるが、実際はそうではないと范承宗は言う。多くの工芸品は時代のニーズに合わなくなったために淘汰されてしまっただけなのだ。しかし、かつてこれらの工芸品は庶民が日々使用するものであり、熟練した職人の生産能力は高く、品質も安定していたのである。
43本の竹板を湾曲させて作った「43椅」は世界にひとつしかない作品である。