バーチャルリアリティ
絵本を楽しむ空間づくりや、音楽や舞台とのコラボレーションの他に、読者を絵本の世界に導くにはどのような方法があるのだろう。
長年に渡ってジミー・リャオのブランド運営に携わっている墨策国際(Jimmy SPA)はジミーの作品の異業種展開を試みている。映画や舞台、台北MRT南港駅の壁画の他、宜蘭駅横の「幸福転運站」にはジミーの描いたシーンやキャラクターが展示され、リアルな形でその世界に触れられる。
昨年、Jimmy SPAはHTCおよび壹動画(ネクスト・アニメーション)とともにジミーの絵本『我的世界都是你(私の世界はあなたでいっぱい)』をバーチャルリアリティ(VR)に転換し、絵本を立体にした。
この作品は、愛する犬を亡くした少女が、かつて家族が経営していたホテルの部屋を一つ一つ訪ねながら犬との思い出を探す物語だ。その間にさまざまなキャラクターと出会い、少しずつ犬との別れと向き合い、最後にはそれを思い出として受け入れるという物語である。
VR用のゴーグルをつけると、繊細な絵本の世界が目の前に広がる。現在は4つの物語が作られている。心を開放する「庭師と太っちょの木」、何かを大切に思う気持ちを表す「怪獣とテレビ」、新たな始まりを示唆する「運搬員とピアノ」、そして忘却を選ぶ「さすらう女と記憶」である。ユーザーは絵本の中の少女になり、さまざまなシーンを進んでいく。
例えば少女はさすらう女とともに船に乗り、真っ暗な海に漂う。手に持ったVRコントローラーは懐中電灯になり、その光とともにさすらう女の記憶の中に入っていく。最後に海の真ん中まで行くと、辺りは色とりどりのバルーンに包まれ、水平線から三日月が上り、少女は手を振って犬に別れを告げる。
平面の絵本の世界をVR化するのは容易なことではない。「まず物語は絵本とつながっていなければなりません。また360度のシーンを展開するために絵は非常に繊細に描かなければ、欠点が見えてしまいます」とJimmy SPAの李雨珊・総経理は言う。各キャラクターの身長や怪獣の毛の流れ、インタラクティブな動きなど、さまざまな細部を考慮する必要があった。絵本のVR化に当たっては、娯楽性がありインタラクティブであり、なおかつジミーの創作精神が伝わらなければならないのである。製作スタッフの努力の末、ジミー本人もVRの中に出てくる少女に手を伸ばし、話しかけたいと思ったほどだという。
こうして完成した「ジミー絵本VR新視界」は2016年、フランクフルトのブックフェアで発表され、台北のSyntrend三創生活園区と宜蘭の幸福転運站でも体験できる。これが高く評価され、ジミーの作品と人々との距離も縮まった。今後は中国大陸・武漢にジミーの作品が展示され、またホテルの客室にもジミーの世界を取り入れる計画が進んでいる。
絵本に描かれた想像の世界を暮らしに取り入れれば、虚構と現実の境があいまいになり、イマジネーションが無限に広がっていく。
国立交響楽団による「永遠の童話」シリーズコンサートは、子供たちの美的感覚を育む。(国立交響楽団提供)
国立交響楽団による「永遠の童話」シリーズコンサートは、子供たちの美的感覚を育む。(国立交響楽団提供)
ジミー(幾米)の作品が大型のインスタレーションになり、絵本が暮らしにとけ込んでいる。
絵本をバーチャルリアリティ化するには、キャラクターの比率を精確に計算しなければならない。(Jimmy SPA提供)
バーチャルリアリティ用のゴーグルをつければ、ジミーの絵本の一部となって遊ぶことができる。(左の4枚はJimmy SPA提供)
ジミーの絵本の世界が楽しめる宜蘭の幸福転運站(ハッピーステーション)。
絵本の世界が身近になれば、人々のイマジネーションも広がっていく。