音の社会観察
耳を傾けることで、平凡な日常に平凡でないものを見出し、この地を改めて知る。アーティスト呉燦政による『台湾サウンドマップ‧プロジェクト』は、10年にわたって台湾各地でサウンドスケープ(音の風景)を集めた取り組みだ。都市、山、畑、湖、道路、駅などの音を、1万4000を超える録音ファイルとして整理し、サウンドマップを作ってウェブサイトでシェアしている。
また彼は台湾サウンドマップをオーディオビジュアル‧アートとして、台湾各地や、韓国、ドイツ、日本、スペインなどで展示してきた。今年(2022年)夏には桃園市龍潭の「十一份美術館」に登場している。
台湾地図の至る所に赤い点が並ぶ。呉燦政はグーグル‧マップ上に音声ファイルを置き、赤点をクリックするだけでその地のサウンドスケープが聞こえるようにした。聞く人はたいてい先に自分の知る場所を探すが、地名や道路名が記されていないので衛星画像を頼りに探すことになる。「わざと見つけにくくしたのです」と呉燦政は笑う。探すうちにほかの所もクリックするので異なるサウンドスケープに出会えるという。
展示の行われる町でも必ずサウンドスケープを録音する。しかも何回も足を運ぶ。1回目はいわばロケハンで、音声環境や通常の音を中心に録音し、感じたものを耳に記憶する。「見逃されがちなものを音で表したいです」
「十一份文化パーク」では、近くに陸軍基地があるので決まった時間にヘリコプターが飛び交うが、最初はそれに出会えなくて、次はわざわざ夕方前に訪れた。するとヘリコプターだけでなく、同地区で夕方に流される音楽、鳥や犬の鳴き声、ゴミ回収車のメロディなど、人々の営みと自然が混然となった音が録音できた。
知らない町に来ると呉燦政は市場に行く。現地の人口構成や生活の様子などがすぐに把握できる場所だからだ。例えば台北市では市場も現代化して建物の中にあるように、市場には都市計画や人口密度、消費形態が反映される。だから市場によって異なるサウンドスケープがある。

週末の午前中の龍山寺に響き渡る読経の声は、強い生命力を感じさせる。