炎天下の夏、人々の足元には涼しげなミュールやサンダルが目立つ。
だが、さまざまな事情で特殊な足の形をした人々にとっては、自分の足に合った靴を買い求めることすら容易ではない。では、彼らはどこで適した靴を見つけているのだろう。また、特殊な靴にはどのようなものがあるのだろう。
靴類及びスポーツ・レジャー科学技術研究開発センター(以下「靴技センター」)の研究員である侯育文さんは、重さ150キロのコンピュータ・スキャナーを車に積んで朝早く台中を出発し、台北市信義路五段にある第一社会福利基金会にやってきた。足に障害を持つ人の靴を作るため、侯さんは毎月、寸法測定のために全国各地を回っている。
4歳になる劉さんは先天的多重障害で両足の長さに3.8センチの差があり、歩く時にバランスが不安定になる。転ばないかと、お母さんは子供から目を離せない。
昨年、侯育文さんが作ってくれた靴を履くようになってからは安定して歩けるようになり、今ではお母さんの手を引いて、階段の上り降りをするのがお気に入りだ。いつもこの靴を履くので1年ですっかり擦り切れてしまい、侯さんが台北に来ると聞いたお母さんは、新しい靴を注文しようと子供を連れて来た。
「家の中で靴を履きたがらないのですが」というお母さんの相談に、侯さんは、室内外で一足ずつ靴を新しく作るか、或いはいつもの靴に特性のソールをつけて室内で履くようにするか提案した。常に靴を履かないと、長期にわたる重心の傾きが腰椎の発育に影響するからだ。

夏になると女性たちの足元の涼しげなサンダルやミュールが目を引く。だが外見を重視するあまり自分に合わない靴を履いていないだろうか。
やっとみつけた靴
基隆で小学校の先生をする張さんは、6歳の息子さんを連れてやって来た。息子さんは生まれながら手足の指が多かったり、くっついていたりして、2歳までに何度も矯正手術を受けた。おかげで両足の裏は地面につくようにはなったが、ほとんどアーチがないので偏平足の症状に悩んでいる。また水頭症のため頭が大きくバランスも悪い。特製の靴を履くことで足の成長が促せれば、もっと安定して歩けるようになるだろうとお父さんは期待している。
特製の靴が必要なのは、先天的障害の場合だけでなく、後天的な病で足に病変を生じた人も含まれる。
52歳の黄さんは慢性関節リウマチで、手足の関節が曲がったり、足の指がくっついたりしているため、歩行が困難だ。幅の広い紳士靴を試しても履き心地はすこぶる悪く、仕方なく、足の指を出せるサンダルを履き続けてきた。
こういった困難に苦しむ人々が、今では病院や障害者団体などの紹介で靴技センターを訪れ、自分の足に合った靴を作れるようになった。
靴技センターは1991年、経済部(経済省に相当)工業局と台湾区靴製造組合との共同出資で設立され、靴類の開発や整形靴の受注製造を行なってきた。2003年には内政部(内政省)の援助を受け、足に合った靴を買えない全国数10万の人のために足補助具資源センターを設立し、各県や市の社会福祉団体を巡回している。
整形靴の製造は、足の複雑な立体曲線を把握しなければならず、非常に複雑だ。だがハイテクという力強い味方がある。それが、カナダから購入した800万元以上する立体動画スキャナーだ。これを用いて侯育文さんは足を測定し、センターに戻ってからパソコンで靴型を設計する。その設計図をもとに、外側は牛革、内側は豚皮で靴を作り、完成後、念のため試着してもらって、足に合うまで調整する。足の測定から靴の完成までに約1ヶ月かかる。

土踏まずは重要な構造で、これが地面の反動を吸収してくれる。偏平足や土踏まずのアーチが高すぎる人は重心が安定しないが、中敷を工夫することで支える力を高めることができる。
足病医学専攻
高い技術と時間を要する整形靴は一足に何万元もかかるが、靴技センターは内政部の補助を受け、価格を3500元に抑えている。内政部の「心身障害補助具補助原則」によると、障害者手帳のある人は、各自治体社会局の同年度の申請資格に合えば、申請書や医師の診断書、靴技センターの領収書を添えて補助を申請できるという。
同センターで足診断や靴製造に専門的意見を提供する侯育文さんは、足病医学を専攻した、台湾では数少ない人材だ。
高一の時、侯さんは父親の仕事の関係でアメリカのカリフォルニア州に移住した。大学の化学科を卒業後、サンフランシスコの足病医大学に入り、足病医の資格を取得した。
「当時はテニスに狂って、テニスシューズを3週間に1足履きつぶしていました。足病医学を学んだのは、すぐ靴がだめになるわけを知りたかったからです」と言う。
アメリカの医師免許を持ち、カリフォルニアの病院に勤めた経験もある侯さんだが「いついかなる時でも、夜中でさえ呼び出しのかかる医師はストレスが大きい」と、自分が医者に向いていないことを悟った。
1999年、台湾の親戚を訪れた侯さんの目に靴技センターの求人広告が留まった。資格条件は足病医学、解剖学、生物力学を学んだ人とあった。そこで18年間暮らしたアメリカを後にし、台湾に戻った。

夏になると女性たちの足元の涼しげなサンダルやミュールが目を引く。だが外見を重視するあまり自分に合わない靴を履いていないだろうか。
全身の重量がかかる
ミケランジェロが「芸術品」と讃えた人間の足は、他の動物にはない構造を持つ。それは、地面と接触するかかと、前にまっすぐ伸びた足の指、そしてアーチ型構造だ。
人の足(足首より下)は26の骨と33の関節と19の筋肉、107の腱から成り、全身で206ある骨のうち両足だけで4分の1を占める。体全体の体積から見れば小さいものの、足は全身のうち心臓に次いで二番目に過酷な働きをしている。つまり全身の体重を支え、地面からの反作用を吸収し、地形の起伏に合わせて歩いたり走ったりする動力を提供しているのだ。
アメリカにおける足病医学の起源は第二次世界大戦後にさかのぼる。足を負傷した大勢の米兵に対する医療ケア、とりわけ整形靴と補助具の製作が必要となり、従来の医学では対応できなくなったのだ。医学界の呼びかけにより70年代に足病医学という新たな分野が生まれた。足の痛みの軽減を目的とした足病医学は、その後30年で下肢疾患に対する診断や治療、手術を行なう専門分野へと発展した。
現在アメリカではすでに専門の足病医学部が医師を養成し、足病科医は膝関節以下(膝関節を含まない)に外科手術を行なったり、偏平足や内股、外股といった症状のある児童に非外科的な矯正を施す。
台湾でのスタートはやや遅れたものの、現在、足の外科専門医を置く病院は少なくない。

整形靴の製作過程は複雑で、足型の測定から完成まで1ヶ月の時間を要する。
靴に足を合わせるのでなく
靴技センターの製靴量は、4年前は70足余りだったが、その後は年々倍になり、今年前半ですでに300足以上の注文が入った。侯育文さんが設計してきた整形靴は4年間でざっと1000足以上になる。
侯さんが靴を作ってあげた人のうち最も有名なのは、中央研究院の許倬雲博士だろう。許博士の手足は先天的に内側に湾曲しており、米国留学以前は、足の裏が内側に曲がった状態のまま、特製の靴に綿をたくさんつめて履いていた。その後、アメリカで5回にわたる矯正手術を受けて足を伸ばし、その病院で整形靴も作ってもらった。
帰国後は、アメリカで作った靴を、当時の国軍負傷者製靴センターへ持って行き、同じように作ってもらっていた。同センターが台北栄民総病院に併合されてからも、計三人の製靴職人のお世話になったが、彼らもやがて一人、また一人と退職してしまい、最後に今の靴技センターを紹介されたのである。
侯さんは、許さんの靴を新たに設計するに際し、平型、アーチ型、アーチなし型と三種類のソールを用意し、試し履きしてもらった。快適で丈夫だったため、許さんは一度に三足注文した。

偏平足や外股、内股などは幼児期に矯正することが重要だ。子供が転びやすかったり、左右の肩の高さが違うような場合は、すぐに検査した方がよい。
快適さ優先
「整形靴の最大の困難は技術ではなく、履く人の精神の克服です」と侯さんは断言する。多くの患者さんが靴で足の欠点を隠したいと思っているが、快適さを追究すれば見た目は悪くなりがちだ。足の指がない場合、制限はさらに大きく、できた靴を見て「ゴムボートみたい」と嘆く人もいる。それでも侯さんは辛抱強く説明し、快適さを維持できる範囲で、なるべく作り直すようにしている。作り直しが10回以上に及んだこともある。
だが整形靴の良さは、履けばすぐにわかる。ある男性は両足の長さが12センチ違い、履いていた靴は底の部分だけで1.5キロの重さがあった。それが、発泡材を利用したセンターの靴を履いてみると半分の重さで、しきりに感激していた。
侯さんが最も嬉しかったのは、9歳の男の子のために靴を作った時のことだ。車椅子に座っていたが、整形靴を履いて歩行練習を数ヶ月したら教室内を自由に歩けるようになった。障害者や高齢者にとって補助具を使うのは、疲労をなくすだけでなく、独立した質の高い生活を送れ、周囲の負担も減らせることにつながると、侯さんは指摘する。

左右の足の長さが違う女の子も、整形靴を履いて安定して歩けるようになった。
「ずるずる悪化」を防ぐ
整形靴を必要とする人はどのくらいいるのだろう。内政部の統計によれば、台湾で84万人いる心身障害者のうち42%が肢体障害で、約35万人が歩行が困難だという。
台北脊祥クリニックのリハビリ科医である汪作良さんは、整形靴の必要な人は次の3タイプに大きく分かれると言う。一つ目は、偏平足やハイアーチといった足の病気が生物学的不均衡をもたらしているタイプ。二つ目は、糖尿病やハンセン病、関節リウマチなどで足の感覚機能を失っているタイプ。そして足に異常のある児童が三つ目のタイプで、発育途中の彼らは、靴にも特別な配慮が必要だ。
「偏平足は幸せな方です。今やたいていの病院のリハビリ科で補助具を作っていますから」と汪さんは言う。技術的にも簡単で、コンピュータか石膏で型を取り、靴にソールを加えるだけでバランスが改善され、歩行も楽になる。
二つ目は、病気で足の感覚を失くし、できた傷に気づかず、重い感染症に至る場合で、最近年々増加している。特に糖尿病は傷口が治癒しにくく、治療が困難だ。
汪さんによれば、台湾で糖尿病は死因の5位に上っており、40歳以上では6%が罹り、そのうち15%の人の足に病変が見られる。下肢切断に至るケースは、台湾ではすでに事故による場合を上回る。
糖尿病が怖いのは、足にできた小さな潰瘍をおろそかにしたために、指から足、ふくらはぎと徐々に拡大し、切断せざる得なくなることだと侯さんは指摘する。
足の炎症を防ぐため、糖尿病患者には特に自分の足に合う整形靴が必要だ。だが、整形靴製造は技術が難しく人材も少ないため、どの病院でも作れるというわけではない。オーダー靴を扱うメーカーのLa Newなどで作ると1足2万元以上もするため、多くの人は半官半民の靴技センターに頼るしかない。

糖尿病は我が国の十大死亡原因の一つだ。多くの患者は足の感覚を失い、ケガをしても気づかず、時には切断しなければならないこともある。糖尿病患者は毎日足の状況を検査し、注意深く保護しなければならない。
子供は早くから注意を
高雄医学院で外科とリハビリを学び、後に北部で開業した汪作良さんは、数年前に新陳代謝科の病室で多くの糖尿病患者が足に潰瘍を作り苦しむ姿を目の当たりにした。彼らは足に合う靴がないため、足にポリ袋をかぶせ、傷口から膿が流れるままにして歩いていた。それで汪さんは足病医学に関心を向け始めた。
汪さんは文献を読みあさり、靴技センターの協力の下、5000人以上の足型を調査した。台湾人の足は「短い、太い、低い」という傾向があり、欧米人用の細長い靴は合わないと汪さんは感じている。
特に子供の整形靴に、汪さんは力を注ぐ。工業技術研究院との協力で人体工学に基づいた「ナノテク矯健靴」を開発した。これは光触媒や遠赤外線などのナノテクを利用し、抗菌、消臭、ムレ防止機能を持たせた靴で、すでに市販されている。
児童用整形靴を設計する理由は、「市販のエアクッション靴などは品質も高いですが、子供用となると品質が劣ります。大人用のサイズを小さくすればいいというわけにはいきませんから」と汪さんは説明する。
しかも児童整形靴は市場的に将来性も高いと汪さんは見る。偏平足やハイアーチ、内股、外股、O脚、X脚などは、3歳以前はあまり目立たず思春期以降になって気づくことが多い。だが、小さい時から転びやすいとか、両肩の高さが違う、靴底の片方だけが磨り減るといったことに親が気をつけ、病院での測定やレントゲン、家族の病歴等に基づいて早目に整形靴を履くようにすれば治療効果は極めて高いからだ。

足の形がどんなに特殊でも、靴技センターではそれに合った靴を作ることができる。
長い人生を歩むために
「脊椎をビルに例えれば、両足はビルの土台です」と汪さんは形容する。足の異常は、骨盤のバランスに影響し、骨盤がゆがむと脊椎曲線も湾曲する。したがって健康靴の大切さは、もっと知られるべきである。
侯育文さんも指摘するのは、現代人の忙しさとストレスが足に与える影響だ。午後になれば足がだるく、むくんで鉛のように重く感じる人も多いはずだ。
最も早くから仕事用の専門靴に注意を払ってきたのは、看護婦さんたちだろう。長い時間立ったままのことが多く、足の静脈がうっ血しやすい教師や美容師、店員、重量挙げ選手などは、職業に合わせて設計された専用の靴が必要だ。
「特殊な職業や高齢者用の靴は10年前なら作れば作るほど赤字になったでしょう。今は人々の健康意識も高まりました」と靴技センターの劉虣虣所長は言う。すでにロッククライミング・シューズや高齢者用健康靴を設計しており、今後は軍人や警官用の靴をと考えている。軍人用の靴は、通気性や防水性に優れ、水虫などを予防できなくてはいけない。材料開発がうまくいけば、技術をメーカーに移転できる。
いい靴があれば、人生をより快適に、より遠くまで歩ける。靴は、全身の健康を支える足を包んでいるのだから。

夏になると女性たちの足元の涼しげなサンダルやミュールが目を引く。だが外見を重視するあまり自分に合わない靴を履いていないだろうか。

土踏まずは重要な構造で、これが地面の反動を吸収してくれる。偏平足や土踏まずのアーチが高すぎる人は重心が安定しないが、中敷を工夫することで支える力を高めることができる。

土踏まずは重要な構造で、これが地面の反動を吸収してくれる。偏平足や土踏まずのアーチが高すぎる人は重心が安定しないが、中敷を工夫することで支える力を高めることができる。

履きやすく歩きやすい靴は、生涯をともに歩んでくれる最良の友だ。

靴技センターの侯育文さんはアメリカで足病医学を学んだ。立体スキャナーを利用して特殊な足の立体形をコンピュータに入力する。