進歩する修復の概念
現在、美術品の修復と言えば一般に西洋の博物館から始まったとされるが、范定甫によると、東洋の書画にももともと修復の体系があり、それは表装の概念から見て取れると言う。唐代の張彦遠の著書『歴代名画記』には「論装背裱軸」という一章があり、表装について論じている。北宋の米芾は自身が画家であると同時に優れた表装・修復師でもあり、『画史』や『書史』を著している。明代の周嘉+`による『装潢志』と清の周二学の『賞延素心録』も表装と修復に関する重要な書物だ。
「中国では昔から表装修復が行なわれていましたが、重点は文物を本来の使用できる状態に戻すことに置かれていました。それに対して現代の保存修復は、文物の物質的状態を保持するだけでなく、その歴史背景や美、さらには本来の価値や観点なども同時に保存しなければなりません」と范定甫は言う。
伝統の修復師は、表装の技術だけで足りた。裏打ちし直し、色を整えるだけでよかったのである。だが現代では、歴史、美術、芸術史、化学などの知識も求められる。さらに「可逆性」(新たに加えた素材を除去できること)と「識別可能性」(修復の痕跡がオリジナルと調和しつつ識別もできること)、「真実性」、そして最低限の介入といったルールが重視される。
現代の保存修復では、事前の調査記録と修復計画を提出しなければならない。修復の依頼を受けたら、まず「所蔵品状態調査記録表」を作成する。これは文化財のカルテのようなものだと范定甫は説明する。素材や寸法、劣化状況、カビや虫食い、汚れ、破損などの状況を記録し、各種溶剤の検査結果を示し、修復内容を提案する計画書である。これを所蔵者に示して修復の目的や方法を話し合った後に作業に入る。
拡大鏡を用い、溶剤に対する文化財の反応をテストする。