伝統から現代への進化
室内会場に入る前に、屋外の大規模なインスタレーション作品が目に入る。これはキュレーターの一人、アーティストの陳宣誠が園区内の古い線路や工場などを利用し、町並みをコンセプトに10のアイランドを配置したものである。「家将島」「天后島」「神童島」などと、民俗的名称を冠したアイランドの中には張照堂、林柏樑などの写真家の作品を展示し、また芸術家・洪通の絵画、台南美術館所蔵の台湾の祭礼や神仏巡行などの貴重な古い写真が展示されている。
室内会場に足を踏み入れると、伝統と現代を跨ぐ作品がさらに目を惹く。最初の作品は、2003年に台南仁徳慈済宮の建替えに際して、絵師・陳秋山が宮のために作成した壁画である。その傍らの下絵作品エリアを見ると、伝統的な歴史物語ばかりではなく、伝統的技法とは一線を画して、時事ネタ好きの陳秋山が現代の政治家や時事のテーマを描いている。
別の室内会場では、伝統的絵画の技法を用いる廖慶章が、廟の門に描く門神を紙本に描いた作品が見られる。
廖慶章は台南の絵師・丁清石、陳،١伸に前後して寺廟の絵画を学んだ。その題材の多くは儒、仏、道教の人物や物語、民間の戯曲小説などである。廖慶章が中国の寺廟を回った時、山西省にある永楽宮の人物壁画を目の当たりにして感動し、これを紙に描こうと模索したところから、紙本の作品が始まった。
本来は取り外しができず、保管が難しい門神作品だが、寺廟の壁から出ることで対外的な展示を可能にした。陳宣誠のチームが設計したフレームが、この大きな門神絵画の芸術性をさらに高めてくれた。目を凝らしてみると、二尊の巨大な門神の表情や輪郭には、作者本人の影が宿っているかに見える。
「対場工作室」と銘打った展示館では、芸術家が現代的手法で民間信仰に呼応した作品が展示されている。龔卓軍の説明によると、対場の施工法は、多くの廟でよくみられる手法だと言う。廟側では職人二組を招いて同時進行で施工し、工期を短縮すると共に、二組の競争により施工過程に緊張感を維持できるという。
「対場」のコンセプトを現代アートに応用することで、創作にも火花が散る。2016年下半期、李俊陽、林書楷、張徐展、邱子彦の創作チーム4組に分かれて3カ月をかけて共同制作に専念し、「対場作」の火花を散らした。この4組の作品には、ほかのチームの影がほの見える。中でも会場上下の長い壁面に展示された李俊陽と林書楷の作品は、それぞれ様式や構図、テーマも異なるものの、相手の創作モチーフが互いに影響し合っているのがうかがえる。
写真によるインスタレーション作品を主とした「伝神劇場」には写真家・林柏樑、沈昭良と、芸術家・姚瑞中と日本の写真家・港千尋の作品が展示されている。
スライドによる作品は、写真家の林伯樑が3カ月をかけて、かつて芸術家の席徳進と共に訪れた大甲慈済宮を再訪し、製陶の技法である剪粘工芸(細かく切った陶器片を貼り付ける装飾法)を撮影したものである。今回の撮影で、職人の何金龍と王保原師弟の精巧な剪粘工芸の全容を紹介した。ほの暗い空間に入ると、そこは2006年から2014年にかけて沈昭良が撮影した「舞台車」シリーズの写真作品である。「巨神連線」は、姚瑞中が台湾各地の巨大な神像を撮影したもので、白黒の10点の作品から、現代社会の物質に対する欲望と追求に対する反省が見て取れる。
日本の写真家である港千尋は、東アジアに伝わる伝統工芸「伝神絵」を追求し、写真と絵画を結び付ける古い工芸を新しく解釈した。
第二次大戦終了から冷戦の期間、多くの人が動乱の故国を逃れ、移住先で手元に残された家族や友人のわずかな写真を基に、画家に肖像画を依頼した。これを伝神絵と言うが、眉や目つきのわずかな違いで、親しい人に見えなくなる。
亡くなった母の伝神絵を依頼した人がいたが、何回試してもうまくいかなかった。その後、絵師を探して再度試すと、完成した絵を見たその人は泣き出したという。それはまさに記憶に残された母の姿であった。「それは、あたかも招魂の儀式のようでした」と龔卓軍は言う。
アーティスト涂維政の作品「無遠弗届」は、孔子の塑像に自分の顔をつけたもので、教育体制を風刺している。