書の解体と再構築
董陽孜の名を聞いたことはなくとも、台湾に生活していれば、その書と共にある。ダンスのクラウド・ゲイト、映画の「孽子」「一代宗師」に、金石堂書店など、すべて彼女の書になる。
董陽孜はそこでも、単なる書家に安んじることはない。注文主から依頼を受けて、建物や製品に書を提供したり新年に春聯(旧正月用の書)を書くのでは、何の新しみもなく、若い人の注意を惹かない。董陽孜は芸術家の立場から、書の字体は漢代から現代まで時代を超えられるので、これをより多彩な形式に応用できると考えた。そこで、書を記録の機能から芸術的なレベルにまで引き上げたのである。
董陽孜の作品は巨幅であるため、揮毫に際しては多くの紙を貼り合わせるのが常である。そこで過去に作品としてのレベルに達せず、淘汰したものから、紙を剥がして許容できる部分を選び出して、百点の作品に再構成し、2011年末に「無声の楽章」と題して展示した。再構成した書は、字の形を成してはいないが、雄渾な筆致は強烈な美感を具え、魅惑的な抽象画のようでもあり、書のイメージを一新させる。
キュレーターを担当した姚仁禄は、董陽孜のためにバンド五月天のボーカル阿信や陳綺貞を招いた。アーティストが無声の楽章のイメージを音楽の語法に転換し、書に偏見を持たない若い人を歌声で惹きつけたのである。伝統とポップス、音楽と書とが、ジャンルを超えて出会った。
書道芸術は字体の造形、墨の色の調合と滲み、作品全体の余白構成などが関り、さらに作品制作は一気呵成にやり直しがきかない時間芸術の要素も有する。さらに、董陽孜は狂おしいまでの線の動きを加え、豊かな芸術性を具えて、ジャンルを超えた芸術創作を導いていく。
董陽孜はその書を発端として、若いデザイナーや芸術家との共作を繰り広げる。「私の創作が応用できるのなら使ってください」と呼びかけ、古い芸術である書の世界に、若い芸術家の声が共鳴する。
こうして、董陽孜のジャンルを超えたチャレンジが続く。抽象的な書のラインに、ジャズや現代詩が結びつき、「追魂」と名付けた書のパフォーマンスとして、モダンダンスとジャズ、マルチメディアの「騒」劇場が展開した。その規模は年々拡大しつつある。
董陽孜は若者とのジャンルを越えたコラボを楽しみ、書に新たな命を吹き込むとともに、若い世代に己の文化のルーツを見出させている。左から、陳劭彦、董陽孜、陳彦任、張坤徳。