徳盟儀器（Adronic）のロビーの壁いっぱいに、台湾SGS、GMP品質認証や、欧米の品質認証証書が掛かっている。ケーブル長120mにもなる地底トンネル探査用ビデオスコープの製造から、外径わずか0.8mm、人間の鼻涙管や輸尿管、脳腫瘍を見る医療用内視鏡へ。その途上の紆余曲折と苦心は、曽湘徳の言葉どおり、現状打破の連続だった。

徳盟儀器（Adronic）が開発した工業用内視鏡はモニターで見ることができ、ロシアのエンジニアによるミグ29戦闘機の発動機内部の検査が容易に行えるようになった。（Adronic提供）

弘法筆を選ぶ

2007年、ドイツ在住の曽湘徳に、ドイツの大手3社に数えられる内視鏡メーカーから要望が寄せられた。目で見るだけの工業用内視鏡が、写真撮影や録画をして、スクリーンに投影できるようになれば、年長のエンジニアにも使いやすくなる。その期待が、曽湘徳を開発に動かす。

そこで、カメラ部分が彎曲可能で、撮影と録画ができる工業用内視鏡が開発される。自動車エンジンの燃焼室の検査で、燃焼が完全かどうかを調べる。アウディ、ポルシェ、ボッシュといった自動車大手が顧客だった。さらに、ロシアのミグ戦闘機からも受注し、ミグ専用内視鏡を開発した。発動機内部を検査でき、修理の証拠にもなる。

その十数年、徳盟は顧客のニーズに応え、世界中のカスタマイズ内視鏡を受注していった。様々な形式や寸法の3万種を超える内視鏡は、戦車や潜水艦の排気管やオイルタンクにも入った。放射能と水圧に耐える材質の内視鏡は、原発の設備点検にも使われた。設備内の配管に損傷はないか、小さな瑕疵が計り知れない損失につながるのを防ぐことができる。

医療用内視鏡の開発に打ち込む徳盟儀器の曾湘徳･総経理。最大の夢は、世界の医療用内視鏡市場で台湾が一角を占めるようになることだ。

医療用内視鏡の開発

2012年、曽湘徳の母にステージⅢの鼻咽頭ガンが見つかり、半年後に亡くなる。「工業用内視鏡で、飛行機のエンジンルームのインペラに小石が当たってできた亀裂を見つける。完全に真っ暗な潜水艦のエンジンルームに入り込んで、完全燃焼しているか調べられる。ではなぜ、悪性腫瘍を見つける医療用内視鏡を作らないのか」

母は、迷惑をかけたくなくて、痛み止めを飲み続け、ガンと分かったときにはステージⅢだった。海外にいた曽は、治療経過をふりかえって悔やんだ。もっと早くに見つかっていたら、手術の時に、抗がん剤治療の時に、腫瘍をはっきり「見て」退治できていたら、違う結果になっていたのではないか。

折りしも2012年、長庚グループ傘下の長庚メディカルテクノロジーから医療用内視鏡の開発を委託され、曾湘徳の6年にわたる研究開発の道が開かれた。それは、工業用内視鏡の収益を食い尽くすほどの投資であった。

2020年6月、経済部工業局は、徳盟儀器による内視鏡およびそのサポートシステムの開発に700万元の研究開発助成金の支給を決めた。

微に入り細を穿つ

その間の労苦の中でも、一連の受賞と品質認証が、曾湘徳に前進を続ける決心をさせたのだった。3.5インチ医療内視鏡セットは、持ち運びに便利で、へき地医療における緊急手術に役立つ。2016年と2019年には「台湾エクセレンス」を受賞している。将来は超高速モバイルブロードバンド5Gによって、遠隔医療の利器として発展可能だ。2017年、徳盟は日本を除くアジアの医療内視鏡修理センターの認証も取得した。

欧米製造の耳鼻咽喉科内視鏡は、システム本体、カメラ、光源と、ビデオスコープを含めて、設備全体でメーカーにもよるが50～100万元もする。そのため、規模の大きい病院の耳鼻咽喉科しか所有していない。

徳盟が開発した耳鼻咽喉科用軟性内視鏡は、輝度も画質も欧米メーカーに劣らないが、価格は20万元で済む。地方の耳鼻咽喉科で使って、中耳炎や外耳道ポリープ、鼻咽腔閉鎖不全の検査をしたり、さらには鼻咽腔癌も見つけられる。2019年6月に耳鼻咽喉頭頸外科医学会で発表すると、耳鼻咽喉科医の団体購入を呼んだ。

また、開発チームは、内視鏡を入れる「バブルラック」を開発し、洗浄消毒の自動化を図っている。使いやすさを追求し、消毒が不完全になる不安を取り除いている。

徳盟儀器のロビーの壁には、台湾のSGSやGMP品質認証、欧米の品質認証などの証書が並んでいる。

脳腫瘍を可視化

最初、徳盟の医療内視鏡は研究や教育に使われた。成功大学医学部などの教授の委託を受けて、学術研究に用いる子宮鏡、胆管鏡、咽頭鏡を開発し、更には臨床での課題解決に取り組んだ。

曾湘徳が医療用内視鏡のすごさを思い知ったのは、長庚病院で行われた生後2ヶ月の乳児の脳腫瘍切除術だった。医師が徳盟の医療用内視鏡を使って腫瘍をはっきりと照らし、切除した。取り出した組織の病理診断で再度悪性腫瘍を確認したとき、手術室は歓喜に沸いた。

その全過程を記録していた曾湘徳が説明する。マイクロサージャリーでは、医師は肉眼で腫瘍を確認できない。蛍光診断薬5ALAを投与して、徳盟の内視鏡システムの光線力学波長の光源で照らすと、薬剤を吸収した腫瘍細胞がピンクに光り、精密な切除が可能になるのだ。

更に、内視鏡では腫瘍がどこにあるか見るだけだが、医師は適切なツールでそれを切除しなければならない。この困難な局面を、徳盟は新たなビジネスチャンスに転換し、脳神経外科主要切除補助ツールを開発した。

曾湘徳は2019年から、磁気誘導式内視鏡の開発にかかっている。ナビゲーション機能をもち、精密に腫瘍に誘導できる。2022年には完成する見込みである。また、感染防止に役立つディスポーザブル内視鏡の開発にも成功している。

「医療用内視鏡に取り組んだのは、人の役に立ちたいというだけの熱血でしたが、それが私に、腫瘍の見える内視鏡を設計させたのです」政府が指導する医療機器材産業のマイクロサージャリーとAIへの発展方針に沿い、医療用内視鏡産業に台湾の医療産業のスポットライトが当たっている。

この8年、医療用内視鏡の開発に取り組み、数々の手術の成功に貢献してきた。曾湘徳は感慨もひとしおである。「今は医療をよく理解しています。もし母にいま悪性腫瘍が見つかっていたら、内視鏡で腫瘍を見つけ出し、手術と陽子線治療で、結果は違っていたはずです」

脳神経外科の腫瘍切除用補助ツールは改良を重ね、すでに第7世代になる。

徳盟儀器の内視鏡システムの特殊な光線力学波長の光源で照らすと、薬剤を吸収した腫瘍細胞がピンクに光り、精密な切除が可能になる。（徳盟儀器提供）

徳盟儀器の内視鏡システムの特殊な光線力学波長の光源で照らすと、薬剤を吸収した腫瘍細胞がピンクに光り、精密な切除が可能になる。（徳盟儀器提供）

徳盟儀器の内視鏡システムの特殊な光線力学波長の光源で照らすと、薬剤を吸収した腫瘍細胞がピンクに光り、精密な切除が可能になる。（徳盟儀器提供）

徳盟儀器は将来的に医学センターと協力し、臨床のニーズに合わせてカスタマイズした製品を開発していく。