レンズが捉える台湾の一瞬一瞬
2024年の大会には、11か国からのクリエイターやチームが計250本の作品を出品した。180秒の横型動画や60秒の縦型動画を通じて視聴者を山や海へと誘い、台湾の自然風景を存分に楽しませ、時代が磨き上げた物語を伝えた。
作品を通じて台湾で2番目に高い山である雪山の緑豊かな風景や大雪が降り積もった壮麗な景色が見られるほか、地方政府と研究者が協力して澎湖の鎖港杭湾のサンゴを再生させ、海底に広がる銀河さながらの絶景を復活させた様子を描いたものもある。台湾固有亜種‧キシタアゲハが山林で舞う姿や、鹿港で初心を守り続ける線香職人と、その技を継ぐ子供たちがたゆまぬ努力で紡ぎ出す感動的な地元の物語をテーマにしたものもある。
「毎年、このコンペでは非常に興味深いトレンドが見られます」と話すのは、審査員の一人である映画監督の柯泓志氏だ。作品にはクリエイターたちが目にした台湾の文化的価値が映し出されているほか、この地の社会の息吹も反映されている。
2016年、長年抑圧されてきた原住民族に対して蔡英文総統(当時)がした謝罪をきっかけに、原住民族の歴史観が広く認識され、重視されるようになった。その後の作品にはほぼ毎回、多様で豊かな台湾原住民族の歌謡や物語といった文化的要素が登場する。2019年、台湾はアジアで初めて同性婚の合法化を実現した。多様性の受容と寛容は台湾の誇りであるだけでなく、第7回作品のメインテーマにもなったように、文化的多様性は「全民潮台湾」の作品でよく見られるものだ。
林外交部長は、クリエイターによる台湾のイメージの表現方法には非常に創造的な取り組みが必要とされると話す。特に台湾にある多くの視点や面からどう選択して表現するかが重要だと指摘し、「全ての人々が参加して、世界での台湾ブランドの座標や役割を見出す必要がある」とした。
「全民潮台湾」の審査に10年近く携わってきた世新大学の陳清河学長は、近年では作品を際立たせる鍵は物語の語り方にあると見ている。
近年、撮影機材やツールが次々と進化し、普及したことで、クリエイターの作品の質が飛躍的に向上した。視聴者の目を引く高品質な映像はもはや基本となっており、陳学長は「空撮は、かつては作品を華やかにする技法だったが、今は物語をどう語るかが重要だ」との認識も示す。優れた素材を見つけ、それを新たな創造性で物語として表現することが、外国の視聴者が台湾を知り、訪れるきっかけを作る原動力になるという。
例えば、生きた化石とされるカブトガニを主役にした作品『鱟会有期(Hold the Hope)』は、台湾の地域文化とカブトガニの結びつきを描き、この生物が台湾の土地と深く関係することを伝える。さらに、カブトガニ研究者‧楊明哲博士ら、カブトガニ復活に取り組む研究者たちの努力と成果を通じ、台湾の生物多様性への取り組みも描いた。地域性と国際性を巧みに組み合わせたこの作品は、生態をテーマにした他作品とは異なるストーリー展開で、横型動画の最優秀賞を受賞した。これは新しい物語の語り方の成功例と言える。