ラオスのランドスケープデザイナー

新型コロナウイルスの感染拡大以来、ラオスのランドスケープデザイナーであるTongchan Kamphart（Pat）が務めるPha Tad Ke植物園は2020年の9月現在、まだ閉館している。

「観光客がまったく入ってこられないのです」と植物園内に座ったPatはリモートで我々のインタビューに答えてくれた。彼が勤務するPha Tad Ke植物園はルアンパバーンにあり、観光スポットとして観光客に愛されているが、ラオスはコロナ禍で観光ビザの発給を停止したため、観光収入に頼っている植物園も閉鎖せざるを得なくなった。それまで、Patはここでランドスケープアーティスト兼アートディレクターとして働き、各国の新鋭アーティストと一緒に仕事をしてきた。伝統の仏教儀式と自然景観を融合させて現代的な創作を行なってきたが、新型コロナですべてが変わってしまったと言う。

「飛行機が飛ばなくなり、対面での会議もできず、皆が家で仕事をしています」とコロナ禍の衝撃を語る。9月現在、会合や仏教儀式も制限され、スタッフは別々に園内に入り、帰宅してから電話でコミュニケーションを取っている。

「今はすべてのスケジュールが状況次第で変わり、来月どうなるのかも分かりません」彼が企画した園内の芸術文化センターは2020年の開幕を予定していたが、それも停止したままだ。

コロナ禍で、Zun Eiはアートセラピーに重きを置くようになった。芸術を通して心をいやし、安定させることができる。（Zun Ei提供）

ミャンマーのビジュアルアーティスト

状況はミャンマーも同じだ。アーティストのZun Ei Phyu（Zun Ei）が計画していた国際交流も延期せざるを得なかった。

「2020年は私にとってアートの一年となるはずでした。本来はたくさんの計画があり、その多くは国際協力プロジェクトでした。実は4月には台湾にも行く予定だったのですが、コロナのためにすべて中止になりました」とビジュアルアーティストのZun Eiは言う。

Zun Eiは医者でもある。切り紙アートやインスタレーションなどの芸術創作の合間、金曜日には地域が運営するチャリティ診療所で無料診療をしている。

7月、その診療所は再開する予定だったが、感染が再び拡大して感染者数は3陪以上の1000人に達し、診療所の再開もかなわず、第一線で患者を診ることもできなくなった。

新型コロナはミャンマーに大きなダメージをあたえ、もともと収入の多くない現地の芸術文化関係者は生計を立てるのも難しくなった。それでもZun Eiは幸運な方で、コロナ禍でも海外のバイヤーが彼女の作品を購入している。

コロナ禍で、Zun Eiはアートセラピーに重きを置くようになった。芸術を通して心をいやし、安定させることができる。（Zun Ei提供）

タイのプロデューサー

多くの肩書を持つタイのプロデューサーTanawat Asawaithipondも、コロナ禍の影響を受けている。Tanawatはパフォーマンス‧アーティストでもあり、芸術顧問の仕事もしており、世界的に影響力を持つアーティストや機関‧団体とも頻繁に交流してきた。

新型コロナウイルス感染拡大の収束は見えず、タイの国内情勢も不安定だが、Tanawatは楽観的だ。「自分は影響を受けていないというのではなく、今回の感染拡大を一つの転機と見ているのです」と言う。もちろん全体的な状況は以前ほど良くはないが、そうした中でTanawatは活動をスローダウンし、既存のリソースを一つひとつ整理して対応策を見出している。「プロデューサーとして、常に異なる角度から物事を見なければなりません」と言う。

タイの芸術文化政策は長年にわたって体制的な問題をかかえており、一般的にアーティストは政府からのサポートを得られず、別の仕事で生活を支えるしかないのが現状だ。「ですから新型コロナウイルスが発生してもしなくても、私たちはもともと政府から多くのサポートを得ていないのです」と言う。感染が拡大してから、多くの芸術家は財務上の危機に陥っており、こうした状況はタイだけでなく、東南アジア全体に言えることだとTanawatは言う。

タイをはじめとする東南アジアのアーティストは政府から得られる支援が少なく、生活はますます苦しくなっている。長期的にはこれがタイの芸術文化環境を変える可能性もあると言う。（Tanawat提供）

竹囲工作室の蕭麗虹

国際交流が停止した影響は台湾の芸術文化分野にも及んでいる。竹囲工作室を創設したアーティストの蕭麗虹は、新型コロナウイルスは2020年、自身にとって最大の衝撃だったと語る。「交換プロジェクトはすべて停止してしまいました。私たちは滞在型のアートビレッジをやっているので、今はすべて空室ばかりです」と言う。

文化交流は対面で行なうべきだと信じてきた蕭麗虹は、毎年海外から芸術家を招いて台湾のアートビレッジに滞在してもらい、同時に台湾の芸術家を海外へ送り出していた。しかし2020年に台湾に芸術交流に来た人はゼロだった。

プロデューサーでもあるTanawatは今も従前の計画を進め、ますます積極的に国際交流に取り組んでいるが、コロナ禍によってリソース分配の格差がより大きくなることを心配している。（Tanawat提供）

人生の課題

コロナ禍は、経済面で数々の問題をもたらし、仕事の保障がない芸術家の多くは、不確実な将来に焦燥感や不安を抱いている。

しかし、Zun Eiは芸術的な行動でこれに対応している。4～5月、彼女は完全に充電状態に入り、創作も一切しなかった。仏教徒の彼女は、この混沌とした時期に禅の修行を行ない、仏法を学んだという。アートセラピストの資格も持つ彼女は、自分自身にセラピーを行なった。「ポジティブで積極的でい続けなければならないと思うからです。これからも暮らしていくのですから」

「誰もがいつ死んでもおかしくありません。ただ新型コロナウイルスが流行する前は、私たちはこのことを見過ごしていました」と言うZen Eiは、コロナ禍が一つの気付きとなり、創作のインスピレーションになったと語る。彼女は3つのワークショップを率いて、参加者とともに「恐れ」という感覚を探ることにした。

Patは仏教の哲理を活かして心身を安定させていると言う。「新型コロナウイルスの流行に直面して、多くの人は新しい仕事や収入源を探そうと努力しているかもしれませんが、私たち仏教徒は自然の流れに任せられると考えるものです」と語る彼は、生活はよりシンプルなものへと回帰させられると考える。「農業でも暮らしていけますし、こうした時こそ家族とともに時間を過ごすことができます」

蕭麗虹はアートビレッジの機能を変化させた。「私のチームは今、バーチャルエクスチェンジの計画を立てています」と言う。「仲人」のような位置づけでアートビレッジをマッチングのプラットフォームとして台湾と海外の芸術家をつなぎ、オンラインのバーチャルな方法でテーマと経験を交換し、協力していくというものだ。

蕭麗虹は、新型コロナウイルスの流行は「不正常」な現象をもたらしたが、これは将来の「新たな常態」となる可能性もあるのだから、芸術文化関係者は、早く切り替えて自分の道を見出さなければならないと考える。

「アーティストが無用になるのではなく、社会型のサービスや教育の推進へと転換するべきなのです」と言う。この危機の中で、アーティストは芸術が持つ真の創造力を発揮することができる。芸術をクリエイティブなサービスへと転換し、あるいは芸術文化空間をプラットフォームへと転換していかなければならない。感染拡大という不確実な状況の中、こうしてこそ危機の中に転機を見出すことができるのである。

プロデューサーでもあるTanawatは今も従前の計画を進め、ますます積極的に国際交流に取り組んでいるが、コロナ禍によってリソース分配の格差がより大きくなることを心配している。（Tanawat提供）

プロデューサーでもあるTanawatは今も従前の計画を進め、ますます積極的に国際交流に取り組んでいるが、コロナ禍によってリソース分配の格差がより大きくなることを心配している。（Tanawat提供）

プロデューサーでもあるTanawatは今も従前の計画を進め、ますます積極的に国際交流に取り組んでいるが、コロナ禍によってリソース分配の格差がより大きくなることを心配している。（Tanawat提供）

新型コロナウイルスの流行で国際的な芸術交流やアートビレッジは大きな影響を受けている。アーティストは迅速に転換して社会との関わりを広げ、芸術の力を社会に還元するべきだと蕭麗虹は考える。（竹囲工作室提供）