集団の記憶となる歌声
その後、黄瑞豊はTTVを離れ、スタジオミュージシャンとなった。
スタジオでの40年、どんなアーティストの伴奏をしたかと問うと、彼は、誰の伴奏をしたことがないかを聞いた方が早いと言う。「アーティストの9割と一緒に仕事をしてきました。私のウィキペディアを見ればわかりますよ」
一般に、歌手は毎年2~3枚のアルバムを出し、アルバム1枚に10~20曲を収録する。余天や葉啓田のような歌手は30枚以上のアルバムを出してきた。黒いレコードの時代から、カセットテープ、CD、LDの時代まで、多くの歌手がレコードを制作してきたため、黄瑞豊は年間平均2000曲、合計10万曲の制作に携わってきたのである。
これほど多くのアーティストのバックで演奏してきた彼だが、一番好きな歌手は鳳飛飛と崔台菁だと言う。「崔台菁の1976年の『乗風破浪』は私が伴奏した国語ポップスの中でも、ファンクのテイストがある前衛的な曲でした」と語りながら8ビートや16ビートをたたき、ファンクのグルーヴの手本を見せてくれる。ドラマーは常に観察しながら考えつつ演奏しなければならないのだ。
鳳飛飛は一度聴いたら忘れられない独特のビブラートとスタイルを持つ、国語・台湾語歌手だ。「『楓葉情』という歌のドラムも演奏しました。作曲家の駱明道はちょっと変わったリズムの曲を作るので知られています。そこで私は曲に入る前にバスドラムでドン、ドン、ドン、ドンと4回重音を響かせました」と言う。
その後、音楽のデジタル化が進むにつれてレコード市場は縮小していき、小規模なサイン会から大型のコンサートまでが流行音楽の重要な現場となった。経験の豊富な黄瑞豊は、コンサートのステージにおいてスローテンポの曲の雰囲気を出すのに長けていることから、「再回首」や「驛動的心」といった味わい深い歌を歌うアーティストの姜育恒のアルバム20枚以上、200曲以上の演奏を担当し、コンサートでも70回以上演奏してきた。二人の息がぴったり合っているのは、30年以上の交流があるからだ。

2022年、高雄流行音楽センターの吹風ミュージックフェスでの演奏。