創作の本質へ
日常のさまざまなことがBounceの創作の題材となる。社会的テーマの方が共鳴を得られるかも知れないが、彼は扱わない。「一人一人立場があり、答えは一つではないので、あまり深く解読せずに私の絵そのものを見てほしいのです」と言う。「私が強調するのは個人としての創作の本質で、それは視覚的なものです。学校で美術史や学術的なものを学んだので、創作の目的はダヴィンチやゴッホに近く、自分の内なるものを表現することこそ、最も純粋だと考えています」
グラフィティペインターは自分の独自性を出そうと、高層ビルの外壁にサインを書いたり、先に描かれた作品の上に自分の作品を描いたりすることがあり、Bounceの作品もそういう目に遭ったことがあるが、彼は落ち着いている。ベテランとして、ペインターの気持ちは理解しているが、重要なのは尊重する態度だと考えている。「多くのペインターは、台湾は文化的素養が低く、グラフィティを尊重しないと批判しますが、他者から尊重されるには、まず自分が他者や環境を尊重し、グラフィティのために努力している人を尊重すべきです」と言う。
多くの人にグラフィティの良さや、一つの都市におけるその意義を知ってもらい、好きになってほしいと願っているのである。
2005年に初めて作品を描いた場所に戻り、彼は思い出す。グラフィティが好きだから毎日夜中の12時が来るのを待って出かけ、都会の深夜の空気を楽しみ、夜明けまで描き続けて始発で家に帰って寝た。それから長い歳月がたったが、彼の夢は変っていない。少しでも多くの人に自分のこだわりを見てほしいのである。それは彼の描くウサギと同様、初心を忘れず、音楽に導かれて前へと進んでいく。そして、誰もが自分の内なる声を聴けるようにと願っているのである。
12年の歳月をかけ、Bounceは世間に認められるアーティストとなった。