食を通して東南アジアを知る
同じASEANでも国によって食習慣は異なり、同じ食材でも国によって調理方法は異なる。例えば小さな丸ナスは、タイではサラダなどで生食し、ベトナムでは漬物、ミャンマーではカレーに添える。
インドネシアは揚げ物や焼き物が多く、香辛料を大量に使うため、料理は黒っぽく見える。ベトナム料理は新鮮な生野菜を豊富に用い、フランス植民地だった影響でフランスパンやハムも食べる。タイはカレーやガパオ、フィリピンはスイーツのハロハロやレチェ・フランが有名だ。
平日のASEAN広場は人影もまばらだが、週末になると人出でごった返し、かつて幽霊船の噂があった廃墟の面影はない。広場前に小さなピラミッドがあり、移住労働者はこの場所をピラミッドと呼んでいる。
タイ語、インドネシア語、ベトナム語、フィリピン語の区別がつかなくても、まずは食から東南アジアに触れることができる。かつて不動産仲介業に従事していた王瑞閔は、人との距離を縮めたければ、食事、または食に関する話をするのが一番だと考えている。
この一帯には数えきれないほどの食堂やレストランがあり、選択肢は豊富だ。CLC Mart内にはベトナム料理やタイ料理のレストランが多く、フィリピン料理の店もあり、1~3階に集中している。回教徒の多いインドネシアでは食に厳格な戒律があるため、食材の汚染を避けるため、レストランは広場の外側に多い。
「私は植物が好きで、それを食べるのも好きです」と話す王瑞閔は、どの店の料理も食べ尽くしたと言い、私たちを連れてインドネシアのサテやベトナムのフォー、タイのガパオライスといった馴染みのある料理ではなく、今までに食べたことのない料理を紹介してくれた。
植物という角度から東南アジアの食に触れていくのは確かに良い方法である。ジャワのラウォンという牛肉スープの黒い色はパンギノキの種を使って出している。インドネシアの緑色の団子菓子クレポンの色はパンダンリーフというハーブの色で、ココナッツフレークをまぶしてあり、中にはパームシュガーの餡が入っている。フィリピンのカラフルなハロハロの色は、ウベという紫色の芋、ニッパヤシの未熟果アタップチー、バナナ、ナタデココなどの色である。そして本物のガパオライスはガパオの葉(ホーリーバジル)で炒めてある。そしてベトナムのお好み焼き、バインセオの生地の黄色はターメリックで、モヤシなどを挟み、シソやミントが添えてある。
だが、東南アジアの野菜との出会いは決して初めてではないことを知っておきたい。私たちが日常的に食べる空心菜は、南洋原産の野菜なのである。台湾の農家が誇りをもって育てている野菜や果物の多くが、実は東南アジアから持ち込まれたものだ。マンゴーはインドが原産で、かつてオランダ人がジャワから持ち込んだ。果物の蓮霧(レンブ)もマレーシアやインドネシアから来たもので、レンブという名称もマレー語のJambuから来たものなのである。
知れば知るほど世界が広がっていく。政府が新南向政策を打ち出すずっと前から、台湾と東南アジアの文化の融合は始まっていたのだ。慣れ親しんだ環境から一歩外へ踏み出してASEAN広場を訪ね、多様な味覚の世界へと出ていってみてはいかがだろう。
市場の八百屋だけでなく、デパート内のスーパーにも東南アジアの食材が並んでいる。写真は、特殊な匂いがあって臭豆と呼ばれるネジレフサマメノキの種子。
市場の八百屋だけでなく、デパート内のスーパーにも東南アジアの食材が並んでいる。写真は天然の色素として用いられるベニノキの種子(アナトー)。
台中のASEAN広場は、ショッピングエリアとして浮き沈みを経てきたが、移住労働者や移民のおかげで生まれ変わった。
年中無休の青果店は、東南アジアから来た人々のホームシックをいやす場でもある。
週末には満員になる食堂。店内では食事だけでなくカラオケも楽しめる。
台中のASEAN広場に行けば、本場の東南アジア料理が味わえる。写真はタイ料理、本物のガパオ(ホーリーバジル)を使ったガパオライス。
台中のASEAN広場に行けば本場の東南アジア料理が味わえる。写真はタイ料理、豚肉と米粉麺(クァイティオ)をココナッツシュガーで炒めた料理。
週末には広場にステージが設けられ、インドネシアの歌や踊りが披露される。
彩り豊かなフィリピンのハロハロ。甘くて身体の熱を冷ましてくれる。
台湾伝統の生薬の店の間に東南アジア系の商店や食堂が並び、衰退していた町に活気がよみがえった。