四方を海に囲まれ、河川が密集した台湾では水は自然資源であるだけでなく、文化的記憶の媒介でもある。北から南まで水と関わる数々の空間は景観を成すとともに、大地に対する人々の深い思いや信仰、民俗文化とつながっている。河川や溜め池を訪れると、これらの「水辺」で生まれた信仰や生活の記憶が、現代の都市と静かに交わり、台湾独特の文化的景観を生み出していることに気付かされる。
台北の淡水河に面した大稲埕埠頭、台南の河楽広場、宜蘭の冬山河や安農渓など、いずれも特色がある。大稲埕埠頭では、コンテナマーケットと遊覧船が歴史と現代の暮らしをつないでいる。河楽広場はオランダの設計チームによって地面より低い位置の、水遊びができる空間となり、都心に自然をよみがえらせた。冬山河生態緑舟は、25年をかけて水田の中に作り出された森林公園で、「人工の自然」の魅力に満ちている。安農渓の河岸は荒れ地となっていたが、公的部門と民間の協力で整備され、散歩やサイクリングやバードウォッチングを楽しめる緑のコリドールに生まれ変わった。これらの空間は気候レジリエンスを高め、また癒しと再生の場にもなっている。
水は生命の源であり、都市文化の根本でもある。昔から「千塘(千の池)之郷」と呼ばれる桃園の溜め池は灌漑用であると同時に独特の文化と景観を育んできた。現在は田畑を潤すだけでなく、豊かな自然とレジャー、防災の空間となっている。華興池や八徳埤塘公園、青塘園などは自然教育と景観設計を融合し、親水体験とバードウォッチングの場を提供している。
溜め池は桃園住民が水とともに暮らしてきた歴史を映し、未来の環境の変化に新たな可能性を考えさせる存在でもある。今月の「台湾光華」では、取材班が台湾各地の水文化の歴史や変遷を追い、水運から親水空間、そして水と都市が共生する設計思想までを整理する。河川がどのように大地を潤して人々の生活を形作ってきたかを振り返り、また台湾人が水と共生してきた知恵とレジリエンスを探っていく。
今月号ではこのほかに、台湾の青年海外ボランティアの物語もお読みいただきたい。また、宜蘭の岳明中小学校の生徒と先生たちの偉大な航海もご紹介する。彼らは台湾の離島と沿海地域の36の学校と協力し、蘇澳港から出航、29日をかけて1047海里(1939キロ)の台湾一周の航海を成し遂げたのである。水は台湾の民俗文化と集団の記憶の源である。水辺では人と自然が深く関わり合い、文化と現代の対話が行なわれている。