先住民集落で台湾の味を育む
シード・デザインが節気飲食を美しくする魔術師だとすれば、「台湾原味」は節気の食をより実地に実践する存在と言えるだろう。
季節の旬の食材を縦軸に、台湾南北や高山から海辺までの環境の違いを横軸にすれば、台湾では豊富で多様な節気の食材が得られる。現代では農業もスピードや量が求められるが、近年はそれによる土壌へのダメージや季節に逆らった農業などへの反省から、有機農業を追求する人が増えてきた。「台湾原味」を創設した呉美貌は先住民集落で有機農業を推進してきた先鋒である。
化学農薬に代る微生物農薬の研究に従事してきた呉美貌は、自身がガンを患ってから有機食材に関心を持つようになった。そんな頃、花蓮の宣教師が先住民集落での農業の雇用機会を増やしたいと考え、当時、財団法人生物技術開発センターで働いていた呉美貌に声をかけた。
研究者として働いてきた呉美貌には農業の経験はほとんどなかったが、有機農法に関する論文を多数読み、農家の人々とともに模索し始めた。以来、集落に心を奪われ、仕事を辞めて大地と向き合うことを心に決めた。
こうして呉美貌が有機農業に取り組み始めて今年で16年になり、台湾各地の先住民集落で彼女の姿が見られるようになった。彼女は先住民農家と一緒に、現地の気候や環境にもっともふさわしい作物を選んでいく。彼女にとって節気は庶民の暮らしそのものであり、環境にやさしい農業をしていれば、大地は必ず豊かな作物を与えてくれると言う。例えば「霜降」の頃、桃園復興郷のピヤワイ集落では柿がたわわに実り、12月初旬の「大雪」が過ぎると、高山のタイヤルの農家は実った白菜を漬物にする。それぞれの季節に、もっともふさわしい生活を送っているのである。
先住民集落の農家の努力を多くの人に知ってもらおうと、呉美貌は「台湾味社会事業有限公司」を設立して「台湾原味」というブランドを打ち出し、集落の農産物の加工を指導し始めた。例えば、地元産のダイズと先住民が山で採る「馬告」というスパイスを合わせて馬告豆干(干し豆腐)を作っている。また花蓮の石梯壺集落のきれいな湧き水で育つホウライシソクサは、現地の特産で、集落の年配者はこれで酒を作る。こうした先住民集落に伝わる知恵の結晶が、呉美貌によって発掘され、集落の若者たちのUターンのきっかけにもなっている。
節気は生活そのものだと考えるシード・デザインでは、屋外の自然をそのまま食卓に取り入れている。