伝統をもとにした革新
酸柑茶をどのようにしてより多くの人に親しんでもらうか、これは劉さんが長年取り組んできた課題だ。劉さんは中に詰める草薬に新たな風味を加えたり、果実のサイズを変えたりして改良を進めた。また、台南の職人と専用の茶開けナイフを作り、陶芸家の張國森さんと協力して苗栗の土を用いた陳茶保存用の陶製の甕や茶を煮出す陶製の茶壷も制作し、酸柑茶の茶文化を充実させた。
伝統的な大きさの酸柑茶は、一度開けると短期間で飲み切るのが難しく、最良の風味を最後まで楽しむことができない。そこで劉さんは小型の柑橘類を用いた実験を始めた。最近最も上手く活用しているのはレモンだ。半分に切ったレモンの果皮に、茶葉、果肉、果汁を混ぜた中身を詰め、ヘタの部分を蓋にして綿の紐で縛ることで、一つの果実を「半顆茶(半個茶)」に仕立てている。他にもダイダイ、シークヮーサー、カントンレモンといった小型の柑橘類を用い、果実を半分に切り再び組み合わせ「二合茶」と名付けたものもある。大型の虎頭柑は四つ切りや八つ切りにして茶を作り、分け合えるように「多分茶」と命名した。
オレンジやマンダリンオレンジはどうだろうか。この疑問に、劉さんは即座に「それはダメ。酸柑茶には酸味のある果実を選ばないと」と返した。酸味があるレモンだが、口に残る茶の甘みは発酵によるものであり、高糖度の果実を用いると、逆に渋みの強い茶になってしまうという。
また、中に詰める草薬は伝統的なものを基本にしながらも、スイカズラ、ドクダミ、シマカンギク、金花茶、アオモジ、アフリカナスといった新たな素材も取り入れ、それぞれの独自の風味と効能を持たせている。劉さんの話を聞いていると手軽そうだが、実際は一つ一つの素材の配合を調整し、何度も茶を作り試飲を繰り返して、最適な味を追求する地道な作業の積み重ねだ。どれほどの経験と時間を要するかは、想像に難くない。

酸柑茶は客家の人々にとって薬でもあった。さまざまな草薬を混ぜ合わせ、どの家庭にも秘伝の配合があったが、家族の中だけで受け継がれ、外部には出回らなかった。