人生を描く絶妙の筆触
「自分の一生は、何でもありの五目そばみたいなものです」と、柯鴻図は言う。応用美術の世界に半世紀近くを過ごしたが、今になってすべては子供の時の夢に戻るためだったと気づく。応用美術のジャンルは幅広いのだが、大きく異なる媒体を扱っても、主軸は常に変わらなかった。それは生れ育った大地への関心と愛情である。
しばしば集中のあまり目を真っ赤にして、息を凝らして画紙に向い、髪の毛のような繊細な細筆で、腕を上げた懸腕法で線を描き出していく。あたかも糸で葉脈や蝶の鱗粉を浮き出させるかのように、生けるがごとき花鳥を画紙の上に出現させるのである。
致理科技大学創新設計学院の陳世倫院長は、中華の花鳥画に新局面を開いたと柯鴻図を語る。中国画の大家で台湾芸術大学の羅振賢元院長は、さらに柯鴻図の画作は、西洋絵画の水彩を用いながら、伝統的な中国絵画の要素を取り込み、新しい特色を具えていると絶賛する。
カメラはもう一本の絵筆と言う通り、大自然の様々な姿を捉え、収蔵するデータベースとして、心の中のユートピアを構築する工具となる。「写実的な技法ですが、画面は写実そのままではなく再構成したものです」と話す。美学と内面の境地を取り入れた桃源郷を現出させ、高い芸術性を有する作品となる。
「作品が完成すれば嬉しいのですが、その喜びは一日限り、長くても一週間で不満な点が出てきます」と、厳しすぎる目で作品をチェックする。これが柯鴻図の謙遜であり、創作への努力を続ける力でもある。「天から与えられた人生の課題は学び続け、創作し続けることです」と話すが、花鳥や蝶など季節を描いた台湾の十二月令図、宋代の傑作清明上河図を模した郷土の風景と犬や猫を描いた横軸まで、その巧みな筆は生命力あふれた鮮やかな姿を留める。台華窯が焼成した磁器のカップに描かれた花鳥シリーズは、作品を立体化したものであり、台湾煙酒(酒煙草)公司も台湾の郷土の味わい豊かな作品を、新しいウィスキーのラベルに採用した。「こんな人生の成績表を出すことができるなんて、家族は驚いていることでしょう」と笑う。人生70歳からの柯鴻図は、芸術のために新しい発展を続けようとしている。
キンモクセイの香りに誘われる蝶。西洋画に中国画の落款や印を加え、東西を融合させた独特の画風。『花香蝶自来』水彩画。
緑の中の一点の紅。風に揺れる蓮の葉に囲まれて艶やかさが際立つ。『独秀』水彩画。
自然を愛する柯鴻図は、山水花鳥から無限のインスピレーションを得る。(林格立撮影)
仲が悪いというイメージの浸透した犬と猫だが、柯鴻図が描くと穏やかな喜びに満ちた情景となる。水彩画『和平』。