皆に見てもらう客家語ドラマ
客家テレビ制作のドラマ数はさほど多くない。ここ数年、台湾映画の復興が見られるが、映像業界で働く人が増えたわけでもなく、映画の方が報酬が高いので、テレビ局はより高い報酬で優秀な人材を集める必要があり、ドラマ制作費も上昇している。黄桂慧によれば、自分がドラマ制作を始めた頃の制作費は80万元ほどだったが、10年たたないうちに約200万元に増えた。予算は変わらないので、連続ドラマは当初の年に2作から2年に3作となり、今では1年に約1作の割合だ。
客家テレビのドラマをふりかえると、より丁寧に作られるようになっただけでなく、題材も大きく変化していることがわかる。黄桂慧によると、当初は台湾に客家の存在があることを知ってもらうために「客家の人と客家の物事」が主で、客家がどのように苦労し、懸命に生きてきたかという話が多かった。例えば2007年の『大将徐傍興』では、「台湾の外科手術第一人者」と呼ばれ、台湾野球の推進者、美和中学創設者でもあった客家の医師・徐傍興を、俳優の温昇豪が演じた。2009年の『十里桂花香』では、夫婦ともに客家の血筋を持つ、鼎泰豊の創立者の楊秉彝とその妻の頼盆妹が描かれ、創業の苦労に始まり、やがて小籠包で成功する物語だ。
だが、こうした客家の物語を続けるには限界があった。実在の人物を扱うにはドラマ性のある話が必要だし、脚本の内容もすべて本人や家族の同意が必要で、それらに1年かかってしまうこともある。それに、こうした内容では、客家テレビは客家のためにドラマを作っていると誤解され、エスニックの垣根を作ってしまうことになりかねない。こうしたイメージを避けるため、局は方向を転換した。話題性のあるテーマを取り上げ、客家以外の視聴者も引き付けようとしたのだ。例えば2010年の学園ドラマ『牽紙鷂的手(凧を揚げる手)』は、ほかの学校を退学になった子供たちが、独自の教育スタイルを持つ教師と出会い、成長していく物語だ。脚本の呂蒔媛はこの作品で初めて金鐘奨に輝いた。
まだ客家のドラマを見たことのない人には、『出境事務所』がお薦めだと黄桂慧は言う。物語は葬儀社が舞台、演技派の呉慷仁や柯淑勤といった俳優陣が出演し、生と死の問題を取り上げた。誰もが親しい人を亡くした経験を持つが、出演者たちはそうした際の感情や言動を見事に演じ、「視聴者は自分の経験に当てはめて共感や慰めを得たはずで、とても癒される作品です」と黄は言う。客家テレビのドラマは放送1回目はさほど注目を集めないものの、題材や俳優陣の良さで徐々に輝きを増し、数年たっても見続けられていることが多い。『出境事務所』は、ある動画サイトの統計によれば、2015年の初回放送以来、客家テレビで最も人気のあるドラマであり、新たな視聴者を魅了し続けている。
客家テレビはドラマ『烏陰天的好日子(曇り空の良き日)』を通して精神疾患への理解を深めてほしいと考えている。