木都に呼応した美術館
嘉義市立美術館(以下「嘉美館」)は、嘉義市の中山路、広寧街、蘭井街に囲まれた三角形の敷地に建つ。嘉義駅を出て南へ徒歩10分足らずで、かつて台湾煙酒公売局嘉義分局だった嘉美館に着く。
美術館は3棟から成る。1棟は1936年建設の台湾総督府専売局嘉義支局だった建物で、市の指定文化財となっている。そして1954年建設の酒類倉庫と、1980年代に再建された製品倉庫だ。今回、嘉美館改築を担ったのは黄明威と王銘顕のチームで、彼らは建築年代の異なるこの3棟の間に三角形のガラス箱のような構造を巧妙にはめ込んで建物をつなげた。こうして古い建築物が見事によみがえり、嘉義の人々とともにまた未来へと歩んでいくことになった。
専売局の古い建物は、日本の建築士、梅澤捨次郎による設計だ。石川県出身の梅澤は1911年から1955年まで台湾にいた。測量員から製図員、建築士となり、人生の最盛期を台湾に捧げたと言ってもよく、作品はすべて台湾にある。台湾総督府専売局松山煙草工場(現在の松山文化クリエイティブパーク)、台南のハヤシ百貨店、台南警察署(現在の台南美術館一館)などだ。
「この建物(嘉義支局)は古典から現代への過渡期における新旧折衷主義によるものと言えます」と黄明威は言う。L字型の建物だが入口は角に置かず、屋内の階段の位置も非対称で、古典主義らしさがない。むしろ味わい深く、見る者に思考を促す。「入口の頭上のひさしは4メートル近い高さなのに柱で支えられてもおらず、古典主義にはこういう水平のものは見られません。しかも台湾は幾度も地震に見舞われたのに今でも無事で、たいしたものです」と黄明威は感心する。
日本に留学していた王銘顕は「当時の日本の建築士は欧米思潮の影響を深く受けており、台湾にいた梅澤もきっとその影響で、レベルの高いこれらの作品を生んだのでしょう」と説明する。黄明威も「この建物を美術館にする我々も、高レベルで応えなければと思いました」と言う。
改築の重点はまず外壁のつなげ方だった。製品倉庫は耐震性が不足していたので、コンクリートの外壁を取り除き、直交集成材(3層以上の構造で強度を高めた木材)によって外壁を組み立てた。より軽い材質で、耐震性を高めるうえ、木材によって冬は暖かく夏は涼しいので省エネにもなる。「『木都』と呼ばれた嘉義の歴史にも呼応します」と王銘顕は言う。しかも木造の外壁にガラスのカーテンウォールを組み合わせたことで、隣の棟に並ぶ窓との間に、新たなリズム感が生まれた。また、古い専売局の建物と同様に、製品倉庫も通りの角を丸く弧を描いた形に設計され、かつての建築士に敬意を表した形となった。
設計図を見ると、もともとつながりのなかった時代の異なる3棟が三角形の空間を加えることで一体化したことがわかる。