果物の販売は、茶葉のそれと同様に口コミが頼りとなる。本当に良い品物は市場に出る前に、目の肥えた常連客の手に渡ってしまうものだ。だが「知果堂」のウェブサイトを開くと、まるで台湾フルーツの最強選手ばかりを揃えたかのようで、全国レベルの賞を取った生産者の品が並ぶ。

熱心なファンの多い優れた農家が作るフルーツは、常に引く手あまただ。またeコマースの普及で農作物や果物を扱うプラットフォームも無数にある。そうした中で、人気の農家はなぜ最高級フルーツの販売を知果堂に託すのだろう。メンバー4人のこの小さな会社の、どこにそのような特別な力があるのだろうか。

学校を出てからずっと果物に関連する仕事をしてきた許哲瑋さんは、その豊富な専門知識を活かしてフルーツ販売のECサイト「知果堂」を立ち上げた。

eコマースのブームに乗る

知果堂を創業した許哲瑋さんのアポを取るのは容易ではない。果物を扱う彼は、まるでフルーツハンターのように一年の3分の1の時間は産地を奔走しているのである。台東県泰源の山深い谷間から屏東県山中の那瑪夏集落まで、果物のあるところならどこへでも出かけていく。

「嫌いな果物はない」と言う30代前半の彼は、社会に出るとすぐに果物と縁を結んだ。最初は逢甲大学夜市の屋台でフルーツジュースを販売した。毎日100個以上の果物をさばいていたため、味見をしなくても、外観で良し悪しを判断できるようになった。続いて彼は有名なジャムのブランド「在欉紅」に就職し、仕入れのために産地を訪れるようになって、多くの生産者と知り合った。その後は、親戚のおかげで一般の人はなかなか入れない台中青果卸売市場の問屋で1年半働き、果物の流通原理を理解するとともに、名人級の果物の達人に教えを請うこともできた。

28歳の時に、父親から「卸売市場での叔母の仕事を引き継ぐ気がないなら、自分でやってみたらどうか」と独立を勧められ、30万元を元手にSNSとGoogleフォームを使って商売を開始した。それから一歩ずつ着実に歩み、現在の知果堂の年商は8桁に達し、100軒以上の農家から安定的な供給を受けている。

業界でも最も高い価格で販売する知果堂だが、その厳格な品定めと完備したアフターサービスから、好評を博している。

農家のパートナー

起業に当たっては、これまでのさまざまな職で培ってきた専門知識が大いに役立ったという。多くの販売チャネルは理念で消費者を説得しようとするが、許哲瑋さんは基本に立ち返り、商品の質と味で勝負する。消費者には本当に良いものを知ってもらいたいと考えているのである。

インタビューの間で、彼はまさに旬の「帝王」グアバと、ミニトマトの「玉女番茄」の選び方を教えてくれた。「グアバの皮が濃い緑だと、まだ熟していないことを意味します。表面にはでこぼこの『露珠』があるものが良く、その方が果肉が厚く、淡い梅の香りがします」と言う。また、驚くほど甘いミニトマトの玉女番茄については「へたの部分が盛り上がっているものを選んでください。そして、皮が薄くて口に入れてもほとんど感じないもの。かすかに酸味があり、甘みが口に残るのが良いものです」と、まさにプロのアドバイスをしてくれる。他のECサイトなどにはない、こうした専門性の高さから多くの優れた農家は彼と提携しようと考えるのである。

消費者の間では「小規模農家を支持しよう」という考えが流行しているが、ディーラーである許哲瑋さんは、卸売業者も生産者も、平等なビジネスパートナーであるべきで、上が下をサポートするような関係ではないと考える。特にこの業界に長い彼は、多くの傑出した生産者と知り合い、彼らの優れた技術を目の当たりにしてきた。天候次第という大きなリスクを冒しつつ、年収100万元を達成している生産者は、苦労が多く所得が低いと言われる農家のイメージを覆すもので、許哲瑋さんはこうした生産者を尊敬している。「農業は芸術にも似ています。決まったルールなどなく、まるでシェフが味付けするかのようです。特に気候が極端化する中で、さまざまな状況に対応する知識がなければなりません」と言う。

収穫の時期になると必ず産地の農家を訪れる許哲瑋さん（左）は、農家の人々を一緒に成長するパートナーと考えている。

ディーラーの責任

大部分の消費者は農作物の輸送や流通ルートに詳しくないため、仲買人や卸売業者を「中間搾取する者」と見がちだが、実際には、産地から食卓まで届ける間にはいくつもの仕事があり、産業が一定程度の規模を持てば、分業が進むのも当然のことなのである。「台湾で、これほど多くの果物が安く売られているのも、卸売業者が原価を低く抑えて、スピーディに輸送しているからです。卸売業者が産地で果物を入荷して市場へ運び、それを小売業者が仕入れて迅速に青果店や市場へ持ち返ります。だからこそ消費者は、産地の採れたての果物を24時間以内に手に入れることができるのです」と、かつて卸売市場で働いたこともある許哲瑋さんは客観的に分析する。

ただ、起業して販売者になった許哲瑋さんは、これまでとは異なるルートを確立しようと考えてきた。「消費者には正直に生産と販売の情報を公開し、生産者に対しては可能な限り作物を販売していき、会社が安定的に成長して業績が上がれば、社員も長く働くことができます」と言う。これが起業以来変わらぬ彼の初心である。「これが私が考えた、すべての利害関係者にとって最良の方法なのです」と言う。

生産者と消費者の間に立つ者として、許哲瑋さんは頻繁に産地に行って優れた生産者を訪問している。いかにして最高の質を維持し、なおかつ安定的に消費者に届けられるかこそ、会社を安定的に経営していくための最大のカギであり、チャレンジ　でもある。そこで、状況が許す限り、彼は作物を台中市大雅にある会社に送ってもらい、それを社員が選別し、包装して顧客に送るようにしている。輸送の難しい一部の果物は、彼らが産地を訪れて加工を経てから出荷する。

果物によっては工夫も必要だ。パパイヤのように収穫後に熟成するものは、箱の中にそれを助けるための炭酸カルシウムを添えたりする。

消費者にとっては、無毒で安全な果物であることが基本条件だが、口で言っただけでは証明できない。そこでオンラインで販売する果物は毎年必ず検査に出し、科学的な検査報告を根拠としている。また、知果堂は良好なアフターサービスでも知られている。消費者から品質に関するクレームがあれば、すぐに確認して返品を受け付け、それと同時に産地の関連情報や専門知識も伝える。彼らは理念や感情に訴えるのではなく、市場のメカニズムに従って、すべての業務を着実に行なっていく。「こうしてこそ産業チェーンがつながり、動いていくのです」と言う。

知果堂と提携している「恋上甜美草苺園」は、市場では珍しく無農薬でイチゴを栽培する農家だ。

知果堂2.0

事業も7年目に入り、知果堂は2.0へと進化しようとしている。これまでは主にベテラン農家と連携してきた彼も、考えを変え始めた。「この事業を今後もずっと続けていくためには、若い生産者とつながることが必要です」と言う。若い農家はコミュニケーション能力が高く、創意もあり、等級分け制度も受け入れてくれるので、知果堂の方向性とマッチするのである。

風雨に関わらず、一年中産地を行き来している彼らは、台湾フルーツの全体像を明確に理解しつつある。どのような品種がどのような地域に適しているか、歴史上の各種要因のほかに、もちろん風土や気候も関わってくる。「果物文化と現地の生活は密接な関係にあります」と言う。そこで彼らはオンライン雑誌『果通信』を発行し始めた。農家の紹介や産地の情報、そしてフルーツの応用レシピなどを紹介している。食パンとフルーツの組み合わせや、ダックワーズなどのスイーツや加工方法など、さまざまなアイディアも、すべては果物を多くの人に食べてもらい、生活に取り入れてほしいからなのである。

どんな山奥へも足を運び、最高の果物を探してくるフルーツハンターによって、私たちは台湾フルーツの豊かさと実力を知ることができる。（知果堂提供）