ハタ王国の栄光と危機

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2011 / 3月

文‧李珊 圖‧薜継光


新鮮なハタのおいしさを知る人は多い。だが、台湾ではハタが輸出額の上位を占め、年に生産高40億元を生み出していることを知る人は少ないだろう。沿岸養殖業者にとってハタは大きな「稼ぎ手」だと言える。

「八八災害(2009年の台風8号の災害)」は、屏東の林辺や佳冬のハタ養殖業者に大きな被害をもたらした。何万元もするハタ科のタマカイが流され、業者の損失は何百、何千万元に上ったうえ、養殖場には泥がたまってしまった。

ハタ王国の栄光を再びと、政府は「2013年ハタ生産倍増計画」を打ち出した。また、両岸経済協力枠組協定(ECFA)で初期の関税減免品目にハタが加えられたことから、大陸市場進出で台湾が「世界最大の輸出元」となる期待が高まった。

だが、養殖業者は好機とは見ていないようだ。養殖場のウィルス汚染によって再建どころかハタ王国の「滅亡」になりかねず、養殖場の整備こそが大切だと言う人もいれば、大陸市場進出のリスクを心配する声もある。いったい、台湾のハタ産業はどのような問題に直面しているのだろう。それらを克服し、「王国」の名を取り戻すことは可能なのだろうか。


まだ夜が明け切らない頃、屏東県佳冬郷塭;豊にある陳昺;亨さんの養殖場には、すでに10数名の人員が集まっていた。今日は1500坪あるこの養殖場で、八八災害後に池に放って1年になるハタ(ヤイトハタ)が収獲される。

6時半、8名ほどがウェットスーツを身につけ、慣れた様子で養殖池に入り、大きな網を投げ入れた。まず網をゆっくりと池の中央まで引いてから、引き手は左右に分かれて徐々に岸の方へと網を移動させていく。岸まで3メートルのところで固定させ、中にいる魚を1匹1匹つかまえる。重さ1斤5両以上、1斤2両以上、1斤以上で3分類し(1斤は600グラム、1両は37.5グラム)、池に備えられた大きな籠にそれぞれ放り込んでいく。

驚くことに、秤にかけず手に持つだけで重さを分類している。小さ過ぎるものは池に再び戻し、1斤以上になるのを待つ。こうして8人ほどがハタを捕まえては投げ、捕まえては投げして1時間余り、すでに池の半分が収獲されていた。それらの籠を秤にかけてから、道路わきに止めてある「活魚運搬車」に載せていく。池の残り半分も同じやり方で収獲され、11時頃、運搬車は東港へ出発、そこから大陸へ輸出される。

海を越えて活魚を

魚を買いに来た卸売商の何竹林さんはこう言った。今日は陳昺;亨さんから5000斤買う予定で活魚運搬車を3台手配してきた。運搬車はトラックを改造したもので、車内には液体酸素供給設備付きのグラスファイバー製水槽が4個ほど備えられている。正午頃には港に運ばれ、手続きを経て3時までには出港し、翌日の正午には福建省冬山港に到着。そこで大陸の卸売業者の手を経て市場やレストランに売られていく。つまり屏東の養殖場から福建や広東のレストランまで、わずか1日半だ。

陳昺;亨さんによれば、12月初旬のヤイトハタの産地価格は1斤210元で、この日の収獲は4200斤だから収入は90万元近くになった。だが八八災害後、ハタの生存率は25%に低下、今年は黒字が見込めない。生存率がせめて災害前の5〜6割になれば、1ヘクタール100〜200万の収益になるという。

サバヒー(虱目魚)、スズキ、マダイが1斤当たり数10元から100元余りで取引されるのに比べ、台湾のハタは高価なので(最近の台湾市場で1斤250〜300元)、7〜8割が香港や大陸沿岸へと輸出される。

台湾のハタ養殖は20数年の歴史があり、初期には野生の稚魚を捕まえて育てるのが一般的だった。が、それでは稚魚の数や養殖の規模も限られる。近年台湾のハタが国際的に名を馳せたのは、人工繁殖の成功によって稚魚や成魚の生産量が激増したことによる。

世界に誇るハタ王国

野生のハタは約400種あり、台湾では7種の人工繁殖に成功している。国連食糧農業機関によれば、2008年の世界のハタ養殖量は約7万5000トン、台湾は1万7000トン余りで世界の23%を占める(表参照)。しかも生産額は年40億元近く、これは世界の58%になる。誇っていいのは、生産量では中国の4割に過ぎない小さな台湾が、生産額では中国の2倍もあることで、その経済価値の高さがうかがえる。

台湾は主にヤイトハタとタマカイを輸出する。中でも「ハタの王」タマカイは名高い。養殖業界で「魚のボス」とされるタマカイは、最大で200斤にまで成長する(通常は種魚にする)。台湾は優れたタマカイ養殖技術を誇り、1匹8センチの稚魚が1年目には3〜5斤に育ち、2年目に15斤、3年目には更に倍になる。消費者の手に届く時点で価格は1斤当たり300〜400元になっており、大きいほど味が良く、肉質に優れ、皮に豊富なコラーゲンを含む。

成長過程による分業

ハタの種魚が産卵、孵化して稚魚、成魚となり輸出されるまでに5〜6人の「飼い主」を経る。各段階での異なる設備や技術は、業者が長年の模索を積み重ねて得たもので、それぞれが独自の腕を誇る。

サプライチェーンの最も川上にあるのは種魚の養殖場だ。商品は器に入った受精卵で、碗ほどの器に約50万個いる。卵から稚魚への間にも数段階ある。まず受精卵が孵化し、1寸(3センチ)の稚魚(台湾語で「白身」)になるのに1ヵ月かかる。この段階の孵化場は池が深く(1〜1.7メートル)、水温もコンピュータで28度に制御されている。餌にはワムシ、アルテミア、カイアシ類などが用いられ、生存率は1〜2割、全滅することも少なくない。その後、1寸から2寸、3寸へと育てる所をそれぞれ「2寸場」「3寸場」と呼び、人工飼料が混ぜられ始める。頻繁に水を換え、排泄物や、病んだり死んだりした魚を除去する必要があり、生存率は業者の技術や天候によって大きく差が出る。孵化や稚魚養殖がたいてい屋内で行われるのに対し、成魚はほとんど屋外で、水質管理や各種疾病の予防に技術の重点が置かれる。

各段階によって養殖場の所在地域も異なる。種魚養殖は屏東の佳冬や枋寮に集中し、孵化は多くが台南、嘉義、雲林(夏に地熱が低く、孵化に適する)、稚魚養殖は屏東の林園、高雄の茄苳、成魚養殖は高雄の永安、屏東の佳冬や枋寮に多い。

枋寮番子崙区の主任委員である陳勝泰さんによれば、こうした分業は、かつてブラックタイガー養殖が衰退し、次の商品を模索する中で自然に形成された「産業集落」だという。分業の長所はそれぞれの専門性や価格競争力が高まることだ。だが、もしチェーンのどこかに問題が生じると、まとめて解決できる組織がなく、損失も甚大だ。

天の時、地の利、人の和

龍佃生物科技公司の戴昆財・董事長は「ハタ大王」と称されており、こう分析する。台湾におけるハタ養殖の繁栄は、時節や地の利、人の和など多くの好条件が重なったもので、特に地の利は大きい。活魚好きで消費量最大の香港市場から台湾は近く、船で1日半の距離だ。フィリピンの3日、ベトナムやマレーシアの5日、中国大陸のハタ生産地、海南島の2日などと比べると優勢は明らかだ。

次に、北回帰線が通過する台湾は温暖で、四季を通じて養殖が可能、大陸沿岸より条件がいい(ハタは10度以下では生存不可能)。また、海南島の中でもハタ養殖に最適な東海岸は、近年香港の不動産王、李嘉誠に買い占められて観光開発が進んでおり、「将来的にも台湾にとって有利」と戴さんは言う。

地理的条件に加え、業者が育んだ技術がある。「台湾の人工繁殖や高密度養殖、活魚運搬技術がハタ王国の名をもたらしました」高雄海洋科技大学水産養殖研究所の蕭世民教授はこう説明する。漁業大国のノルウェーと日本の人工繁殖技術は、前者が2種、後者が15種の魚類だけなのに対し、台湾は民間で200種もの繁殖ができ、大量生産可能な魚も50種ある。ハタでは7種が養殖可能で、世界でも天然のハタの人工繁殖は8種しか行われていない。

技術1 ロマンチックに

「繁殖が難しいのは、ハタが雌雄同体で性転換をするので(雌が2〜3歳、雄が6〜8歳)、雄を増やすためにホルモン投与で性転換を促すからです」繁殖技術で国際的に名高い戴昆財さんは、1985年に会社を設立、1992年にタマカイ養殖技術開発に着手した。高額報酬で数名の研究員を招き、種魚を買い入れては研究を進めた。だが、ホルモン投与の翌日に死んでしまったり、産卵や射精が行われても受精は成功しなかった。

1995年の時点で戴さんはすでに5000万元を投じており、友人には手を引くよう言われたがあきらめなかった。「毎日観察のために養殖場の椅子に座って考え込み、ふと、若い頃、妻とよく行っていた、照明やムードの良いレストランのことを思い出しました」と戴さんは得意げな笑みを浮かべる。彼は、研究者の嘲笑をものともせず、養殖池の環境を変えてみた。すると本当に効果があって受精に成功、その年、ハタの稚魚は1キロにまで成長した。この成功は彼に数億元の年収をもたらし、台湾のハタの名も高めた。

ロマンチックな繁殖環境とはどう作るのか。戴さんは「最高機密だから」とし、南澳でのクロマグロ人工繁殖に似たものだとだけ教えてくれた。日の出や日の入りといった自然の日照変化を模したものらしい。後に戴さんは、タマカイの産卵の習性を変え、それまでは月2回間隔だったのを毎日産卵するようにした。繁殖数が安定した後、天然のハタしか扱わなかった香港のレストランに養殖ハタを売り込み、市場開拓に成功した。

技術2 水と運搬がカギ

さらに台湾では、世界最高密度の養殖が生み出された。「ほかの国の10倍、20倍です」と蕭世民さんは言う。密度を高めるために、24時間水車を回して酸素を送り続け、池もさらに深くし、垂直水車を発明して水の循環を促した。例えば深さを3倍にした場合、ほかの国なら養殖密度は5倍になるが、台湾では15倍にできた。

密度が高いため、水質確保が生存率向上のカギとなる。プロなら水の色の変化だけで、どう処理すればいいかわかる。そのため巡視が欠かせない。「映画を見に行くのにたった3時間留守にするのも嫌がるようになりました。その間に水が変化すれば困ると言うのです」

近年開発された活魚運搬船も台湾人によるものだ。台湾初の活魚運搬船「暢洋号」を作った佳冬の李福成さんはこう言う。運搬途中のちょっとしたミスで魚は傷つき、死ぬこともある。リスクが高いため活魚運搬をしようという船会社はなかった。そこで養殖業者は自ら漁船を改造して運搬船を作った。船の底に穴を開けてパイプを取り付け、そこから海水が水槽に出入りすることで水が循環する仕掛けだ(波につれて船が上下すると海水も出入りする)。

こうした「手作り方式」も、3年ほど前に漁業署が特殊船免許の発行を始めたことで大きく進展する。李福成さんは4000万元を投じ、初の160トン活魚運搬専用船を作った。海水を取り込むためのモーターや、酸素供給設備を備え、一度に最高5万斤の漁獲物運搬が可能だ。時速11海里(20キロ)で進み、魚の損傷率も5〜10%減少した。

環境の激変

八八災害の後、佳冬や林辺の養殖業者は数ヵ月かけて泥の除去や設備の修理を行い、養殖場は次々と再開している。だが、天災への怖れや資金の不足で、よりコストの低い魚に替えた人も多いし、ハタ養殖を続けている人も収獲は災害前より大きく減った。

八八災害で何万匹ものタマカイを失った屏東養殖協会理事長の黄再団さんによれば、成魚の生存率は以前は約6割だったが、災害後は3割に減ってしまった。以前の飼料要求率は1対1だったが(1キロの飼料で1斤の魚が収獲できること)、今は1.3キロの飼料でも1斤の魚を育てられない。主な原因は、河川の決壊でもたらされた大量の泥の中にかつては存在しなかった微生物や有機質が含まれており、それが海に沈積して沿岸の生態を変えてしまったからだ。海水の変化で養殖場の生態も変わり、新たな環境に魚が適応できないのである。

しかも、飼料や電気代、そして水車のモーターの修理代までもが値上がりし、経営環境はますます厳しくなっている。

ほかにも、ハタ大王の戴さんによれば、稚魚の時に神経壊死症ウィルスやイリドウィルスに感染する例が増えており、2010年の稚魚は3割の減産だった。水源と排水先が同じ海なので、相互感染していると言える。戴さんは長年、政府に問題を訴えてきたが、ワクチンなども話に上るだけで具体化しない。

悪条件の重なり

「環境の変化も状況を悪くしています」と蕭世民さんは言う。環境の変化で魚が弱って病気になりやすく、高密度の環境で急速に感染が広がる。そのため最近は室内養殖を勧める声が学術界から上がっている。室内なら温度や水質、ph値などが制御しやすいからだ。

蕭さんは、1〜4ヵ月の稚魚を屋内で養殖し、水質を管理しながら寄生虫やウィルスの侵入を防ぐという実験を1年続けた。すると稚魚の生存率が8割に高まった(一般に2寸の稚魚の生存率は3〜4割)。だが残念なことに、地元の養殖業者はあまり関心がなく、むしろ企業が投資に興味を示している。

「環境の悪化、ウィルスの蔓延、それに資金不足ときては、生産高倍増なんて無理」と、多くの地元業者が八八災害後のローン実施内容に不満をつのらせている。

李福成さんはこう説明する。八八災害後、養殖業者対象のローンは限度額が全国で20億元とされている。屏東県はハタ生産高が全国の3分の2を占めるのに、ローンの合計は7億に満たない。資金は必要だが、さまざまな制限があるので(養殖登記証や水利権証明の提出、公示地価に基づくなど)、ほかの魚に替えた方がいいと思うのだ。

とりわけ、ローンは養殖面積を基準とするので、稚魚養殖業者にとっては不利になる。佳冬で2寸の稚魚を育てる潘建章さんの場合、養殖場は300坪しかないが、1ヵ月に仕入れる稚魚は30〜50万匹に及ぶ。最近は稚魚の減少で価格が高騰し、仕入れ価格に300〜500万元かかる。ところが政府による現行の「1ヘクタールに500万元」というローンでは、50万元しか借りられない。「稚魚なしでどうやって倍増できますか」潘さんは、稚魚養殖対象の特別ローンを組んでもらわなければ今の危機は乗り越えられないと言う。

では将来を見据え、ハタ市場はどう歩むべきなのだろう。

持続可能な輸出経営

ECFA締結で、大陸市場に大きな期待を寄せる業者もいる。だが、大陸市場ばかりを頼めば、価格が大陸で決まってしまうと心配する人も多い。佳冬で養殖と運輸に従事する李炯頤さんは今後の業界担い手となる若き世代であるが、こう指摘する。北京オリンピックやアジア競技大会で観光客が増加しても大陸でのハタの消費量は期待するほど増えなかった。しかも大陸の物価は高騰し続けており、民間の消費力が本当にそれについていけるのだろうか。皆がこぞって経営を拡大し、もし順調に売れなかったら、値崩れを起して損失ははかりしれない。

魚類のウィルスの専門家である齊肖hさんはこう指摘する。ハタの輸出市場が小さ過ぎるのは、台湾の養殖業者が別々に孤軍奮闘し、技術統合が進まないという構造的問題のせいである。もし市場が大きければ、大量生産による値崩れは起こり得ず、技術面でも自ずと協力し合えるだろう、と。

一方、李炯頤さんはこう考える。肉好きな中国人に比べ、日本人は魚、特に活魚を好むので開拓の価値ある市場だ。政府は統括的な生産販売計画を立て、国際市場情報を提供するなど、新市場開拓の手助けをすべきだ。また、人気の高い魚だけを扱うのでなく、他の魚の輸出競争力も次第に身につけなくてはいけない。

健康への関心が高まり、肉よりも魚をという消費者が増えている。天然魚が減少する今日、海水養殖魚は低汚染や安定した品質という長所を持つ。まして優れた養殖技術を持つ台湾には将来性がある。八八災害を経た今、各界が協力して困難を乗り切り、ハタ王国を再建する、その意義は大きい。

世界のハタ生産量
  2003 2004 2005 2006 2007 2008
中国 23,453 28,876 34,039 41,994 42,854 45,213
台湾 11,564 12,512 13,582 9,500 17,234 17,042
インドネシア 8,665 6,552 6,883 3,132 6,370 4,268
マレーシア 1,977 2,284 2,572 4,256 4,208 4,400
タイ 2,338 3,574 2,582 3,036 1,028 918
香港 832 789 514 525 1,028 918
合計 49,471 55,008 60,837 63,048 75,406 75,727
単位:トン 資料:FAO国連食糧農業機関

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