エイズ解決には貧困解決を
「アフリカではエイズは個人というより、家族、経済、社会などの中心的問題です。この病気が蔓延していたら悲劇は繰り返され、貧困から抜け出せません」と余広亮は語る。しかしカクテル療法には巨額の薬剤費がかかる。そんな時、2004年に革命的な変化が起こった。
当時、アフリカの多くの患者の治療のため、アナン国連事務総長はWHOを通じ、欧米の製薬大手が特許を握る薬剤を、インドでジェネリック医薬品として大量に製造させ、グローバル・ファンドの資金で薬品を購入し、途上国向けに提供することにしたのである。これにより薬剤費は一人当り一ヶ月120ドルから20ドルまで引き下げられた。
アフリカの医療環境も激変した。各国政府と国際医療チームはエイズ撲滅に乗り出し、協力フレームワークを組織した。2004年7月に台湾医療チームはマラウイ北部にエイズ専門診療所を設立した。
専門診療が開始されると、医療の問題が明確になり、対処措置も分ってきた。援助は医療から融資、幼児教育、福祉、公衆衛生など多面化し、社会の問題が一つ一つ整理されていった。
最初に問題となったのは、マラウイにはIDがないため薬品使用状況を追跡できないことだった。そこで指紋識別システムでカルテを管理した。続いて、病状が改善すると患者の食欲が回復するが、食料調達の問題が出てきた。これに対し余広亮は、アメリカ疾病予防管理センターに栄養補助食品の協力を仰ぎ、子供向けの炭水化物、蛋白質、脂肪の混合栄養食品を支給することにした。支給後も、子供の臀部の大きさを測り、効果を確認した。
子供の体重が増加しないので、原因を調査すると、栄養食品を家族が食べてしまうためであることがわかった。エイズ患者の家庭には働き口がないのである。ここに至って、台湾医療チームは小額資金を提供し、起業を促し、雇用を促進することで根本的な解決を図ろうと試みた。
こういった対策が軌道に乗ってきたところに国交断絶のニュースが伝わったのである。わずか5年の間に、台湾医療団は5000人を超えるエイズ患者の生命、健康、自立を手助けし、地域での相互協力の場を築いてきた。
敬虔なキリスト教徒である余広亮は、人を愛することこそ己の人生の価値だと信じている。